美しい建物は内外装のマテリアル選定と細部のディテールによるもの

新しい建物や古い建物に限らず、美しいと感じられる建物は外装材や内装材に使われるマテリアルに共通点があります。

それは、自然の揺らぎを感じられるマテリアルの選定と、それを活かすための細部のディテールまでもが美しいことです。

目次

自然の揺らぎが感じられる建築マテリアル

川のせせらぎや海のさざ波、風が木を揺らす音や木漏れ日がきらめく様子など、自然界のある一定の規則性の中で、ヒトの意図しない不規則性が交わる揺らぎ感にヒトは癒しを感じられると言われています。

ヒトの意図しない不規則性が交わる揺らぎが感じられる建築マテリアルは、なぜか美しく感じ、なぜかヒトは落ち着きを感じます。

また、その揺らぎのあるマテリアルは経年による汚れさえも美しさに変えてくれる魔力さえ感じられます。

錆びた鉄

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錆びた鉄が魅力的に感じられるのは、日本人特有の『詫び錆』の感性です。

鉄はベタっと塗装されることが施工性・経済性から最も多く採用されていますが、あまり魅力的には見えません。

また、錆びた鉄は不安そうに見えるので普通は敬遠されがちです。

錆びによる鉄の表情については、化学的に最も安定してる状態で、自然界にある鉄鉱石に戻った本来の姿でもあります。

ただ、赤錆は自然の本来の姿ではありますが、建築としては朽ちて安全な状態ではなくなりますので、技術的に安全で美しい姿を維持させる方法をとります。

コンクリート打放し

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なぜか惹かれる魅力がある打放し。

それは、ヒトの意図しない不規則性が交わる揺らぎ感が表情として現れているところにあります。

コンクリートの主な材料は、石灰・砂・石・水です。工業製品のように感じられますが、実はシンプルで、すべて元は自然界のものでつくられています。

また、コンクリートは原則現場でつくられますので、コンクリートの材料は現場に近いコンクリートプラント工場から出荷されます。すなわち、その地域の土や石が使われているのです。

今や工場で大量生産される工業製品で組み立てられる建築のなかで、いまだに地域に根ざしたつくられ方をしている珍しい材、コンクリート打放しです。

現場でつくられることで、地域の大工で型枠が組まれることになります。

コンクリート打設についても、地域の職人が打設することになります。

この地域でつくられる表情がコンクリート打放しの特徴で、ヒトが意図してつくれない不規則性があることが、魅力的な表情になっている訳でもあります。

煉瓦(レンガ)やタイル

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土を焼いてつくられる煉瓦(レンガ)やタイル

その地域の土の成分によって様々な表情がつくられます。

また、焼き加減やその日の湿度や温度の違いによっても土の表情が変わり、その日に出会うレンガはまさに一期一会です。

このヒトが意図せず出来る土の表情は、自然界のゆらぎの表情そのものです。

ただ、最近は精密な機械の導入により、この一期一会のつくり方で出来る煉瓦(レンガ)やタイルは貴重となってきています。

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建築マテリアルのなかで、最も自然界の姿そのままで使われる材の一つ『木』は説明なしにヒトに安らぎと落ち着きを与えてくれます。

木の表情はよく見ると、揺らぎを持った曲線の集まりでできています。

一本の同じ木材でも、切る方向や部位が違うと、異なる木目が現れます。

このような木の表情は、自然が歳月をかけて生み出すもので、ヒトの意図していない不規則性がヒトを惹きつける魅力となっています。

美しさの隠し味となる細部のディテール

美しいマテリアルがより美しさを放つか否かを左右するのは、全体のバランスから細部のディテールまで血の通ったものになっているかにかかっています。

細部のディテール、その美しさの隠し味となるものが『見切り材』と『設備類』です。

見切り材

美しく魅力的なマテリアルを採用したところで、その細部に血が通っていなければ美しい建物にはなりません。

美しさには細部のディテールが本当に重要となります。

その細部のディテールでも特に重要となるのは『見切り材』です。

壁と天井、壁の床、異素材のマテリアルが隣り合うときなど、建築には沢山の見切り材が存在します。

見切り材のなかで最も身近な所は、壁と床の間にある『巾木(はばき)』ではないでしょうか。

巾木の材の選定、巾木の高さの選定、巾木の要否など、その空間にもっとも美しく馴染む巾木をデザインしなければ、壁材や床材で選んだマテリアルを活かすことができないところか、逆に素材の良さを消し去ってしまうことすらあります。

この細部のディテールは料理と似たような所があります。

素材にばかりこだわっていても、調理方法や調味料の加減が悪ければ、本当においしい料理はうまれてこないのと同じです。

設備機器類

建物には、照明や換気扇、コンセントやスイッチなど沢山の設備機器類が取り付けられます。

設備類の素材は、鉄やコンクリート、レンガ、木などの美しいマテリアルの空間にはそぐわないプラスチック製のものが殆どです。

美しい空間からは、それらプラスチック製の設備機器類は見せないようにしたいところですが、現在の暮らしの中で、無くてはならないものの一つで消し去ることは非常に難しいところです。

ただし、建築と設備をうまく共存させる術もあります。

例えば、タイルのモジュールに合わせてコンセントやスイッチのプレートを壁面に共存させることや、照明や換気扇は壁面と天井面に隙間を造りそこから必要な明かりや換気を確保するなど、やりようはいくらでもあります。

要は、機能的に必要だからと安易に壁面や天井面にそのまま設備機器類を付けると美しい空間が台無しになるので、慎重に建築の中で共存することを意識しなければいけないことを伝えたいです。

建築は美しいだけでなく、機能的で安全でなければならない

当然、建築は何十年もヒトと一緒に暮らし、ヒトを雨風・災害から守っていなければなりません。

暮らしの中で、料理をしたり、入浴したり、排泄したりと、その空間ごとに求められる機能性があります。

水気に耐える材、調湿を要する材、防滑性の必要な材など、適材適所に材を選定し、長きに渡り健全であることが大前提となります。また、日本は稀に環境の変化と災害の多い国であります。四季折々の天候や温度の変動が激しく、地震が多いのが特徴で、それが日本らしい建物のつくり方にも繋がっています。

それらの機能性と安全性を備えた上で、美しい建物にするべきだと考えています。

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この記事を書いた人

・一級建築士
・インテリアプランナー
幼少期から大学までは和歌山の実家で田舎暮らし。
大手ハウスメーカーで累計約40棟の住宅を技術営業として担当。
その後、組織設計事務所に転職し、学校・庁舎・道の駅・公民館・発電所等の主に公共建築物の設計に携わる。
現在は組織設計事務所に所属し、日々建築設計業務に取り組む傍ら、建築系webライターとして建築に関わるマニアックな情報から住宅購入に関わる内容まで幅広く発信している。
和歌山から、大阪、東京と住まいを移し、また和歌山戻り、田舎に自邸を建てる。

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