錆びる鉄の魅力と耐久性の向上

錆びることによる鉄の魅力があります。

詫び錆の感性をもつ日本人ならではの『エイジングを楽しむ』発想以外にも、その魅力は化学的に鉄は本来の姿『自然体』へ還元していることに起因しているからではないかと感じています。

また、鉄の錆びは建築に悪い影響を与えるものばかりではなく、錆びやすさが耐久性に良い影響を与えることや、錆びの種類によって見た目の奥ゆかしさにも影響を与えるものがあります。

目次

鉄の錆びやすさの化学的根拠と、錆びにくい金属のわけ

鉄を含めた金属はイオン化傾向によって『錆びやすさ』が決まります。

鉄を含めた金属の錆びやすさの順番

イオン化傾向『錆びやすさ』の順としては、下記の順です。
Li>K>Ca>Na> Mg >Al≒Ti>Zn≒Cr>Fe>Ni>Sn≒Pb>H2>Cu>Hg>Ag>Pt>Au

リチウム>カリウム>カルシウム>ナトリウム>マグネシウム>アルミニウム≒チタン>亜鉛≒クロム>鉄>ニッケル>スズ≒鉛>水素>銅>水銀>銀>白金>金

イオン化傾向が大きいものは錆びやすいことを示しています。
イオン化傾向が小さいものは、錆びにくく化学的安定性が高いことを示します。金銀プラチナ(白金)が最も化学的安定性が高いことを示しています。

金属の中で最も建築によく使用される鉄(Fe)ですが、錆びるイメージがありますがイオン化傾向の中でそれ程下位ではありません。

アルミやチタンは実は鉄より錆びやすい?

先に挙げたイオン化傾向の順では、意外とアルミやチタン、亜鉛はイオン化傾向が大きく鉄よりも錆びやすい金属の部類に入ります。

ただし、実際はアルミやチタン、亜鉛、クロムは鉄よりも錆びにくい材料で化学的安定性が高いとされています。

これには、『錆び』が錆びにくくしていることが影響しています。
アルミやチタン、亜鉛、クロムが錆びにくい理由は『不動態皮膜』という化学変化が関係しています。

耐久性を上げることが出来る錆びの構造『不動態被膜』

不動態被膜は、金属表面の腐食作用に抵抗する『酸化被膜が生じた状態のこと』=『表面を緻密な錆で覆われること』で、この被膜は溶液や酸にさらされても溶け去ることが無く、緻密で外部の酸が内部に入り込めない構造となっているため、内部の金属を腐食から保護することに繋がっています。

不動態皮膜は一種の酸化物でありますが、数ナノメータと非常に薄くて透明で目には見えません。そのため、不動態皮膜が形成された後も、元の金属の光沢を保ち、その金属本来の意匠を表現できます。

またこの皮膜は、環境に触れた途端に瞬間的に形成されます。

時間が経てば成長してより安定になりますが、薄膜でも化学的安定性を直ちに有することが特徴です。

すべての金属が不動態被膜をつくるわけではなく、不動態被膜をつくりやすく化学的安定性の高い金属は、アルミニウム、クロム、チタン、亜鉛などやその合金と言われています。

不動態皮膜をもつことの最大の特徴は、腐食が殆ど進まないことです。また、金属のイオン化傾向の位置に見合う挙動をせず、ずっと貴の方向(金銀の方向)にあるかのように振る舞うことです。

ステンレスが錆びない鉄と言われているのは多量のクロムを含み、容易に不動態被膜をつくる合金であるからです。

鉄の錆びは化学的安定を求め、錆びの種類によって耐久性に影響を与える

鉄は自然界の鉄鉱石(=錆び)を、石炭と化学反応させることで鉄鉱石(=錆び)に含まれる酸素を奪い(還元)して作られます。

鉄は自然環境の中で再び酸素と結合して錆びることにより、自然界の鉄鉱石へ戻ろうとします。化学的には鉄鉱石=錆びの状態が最も安定していることになります。

鉄の赤錆

鉄は酸素と水に反応して赤錆が発生します。

赤錆は緻密でないため、酸素や水を遮断できず腐食が継続し、内部まで腐食が進みボロボロの状態になり自然へ戻っていきます。

この全てが赤錆となった状態がもっとも化学的に安定している状態です。

この状態では強度が確保できず建築の材料として使用することは好ましくありません。

鉄の錆による錆びさせない方法

鉄は先に紹介したアルミや亜鉛のような自然状態で不動態皮膜をつくることが出来ないため、赤錆が内部に進行してしまいます。

鉄を内部まで錆びが浸透させない方法として、亜鉛メッキ(亜鉛が不動態皮膜を作る)したり、クロムなどを混ぜてステンレス鋼(クロムによって不動態皮膜を作る)とすることで錆びにくい鉄をつくり上げることが建築界では一般的となっています。

また、鉄もアルカリ性の高い環境に置かれると、不動態皮膜を作ることが知られています。

鉄筋コンクリートがよく使われるのは、高アルカリであるコンクリート中で鉄筋が不動態皮膜を作って錆びないからです。

亜鉛メッキやステンレス鋼は鉄を錆びさせない一般的な工法ではありますが、亜鉛であったりクロムの鉄自身の錆ではなく、亜鉛やクロムの不動態皮膜によるもので、鉄本来の姿ではありません。

鉄自身で錆び(不動態皮膜)による耐久性を上げる方法としては、黒錆をまとう方法があります。
黒錆は、厚物の鉄(20㎜以上)を高温で加工し冷めた時にできる錆びで自然の状態ではつくることが出来ません。身近な所では、鉄瓶やフライパンが黒錆をまとったものです。耐久性があり味わいがあります。

黒錆を発生させるには、もう1つ「黒染め」と呼ぶ方法があります。

これは化学的な表面処理によって強制的に膜を形成する方法で、この黒染め処理の膜厚は1µm程度と微細ですが、非常に緻密なため酸素や水が内部に入り込まず錆びが進行しない構造となります。

建築で使われる鉄・アルミ・ステンレス・真鍮・コールテン鋼の特徴とその表情

建築で使われる鉄・アルミ・ステンレス・真鍮・コールテン鋼の防食方法は、金属の合金化、電気防食、化成品処理、塗装などがありますが施工性、経済性の観点から表面に塗装を施すことが圧倒的に有利であるため最もポピュラーになっています。

ちなみに鉄部の錆止め塗料は、鉛系、クロム系が歴史が長くいままではそれが一般的でしたが、地球環境保全の観点からリン酸亜鉛系、亜リン酸亜鉛系の防錆顔料が主流になりつつあります。

ただし、塗装を施すと鉄やアルミ、ステンレスそれぞれの素の姿ではないため、素地が何であっても同様の姿になってしまい個人的には面白さに欠けるように感じます。

鉄(スチール・アイアン)の特徴とその表情

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一般的に建築材料で鉄(スチールやアイアン)と言われているものの殆どは、鉄と炭素の合金である「鋼」で出来ています。

純粋な鉄では、もろく酸化(錆び)やすいため、炭素の含有量をあげ強度を上げています。

ただし、先にもあげたように自然の状態では酸素と水に反応して赤錆が発生することが特徴です。

赤錆はどんどん内部にまで浸透していき、建築的に必要とされる性能までも犯してしまいます。

建築的性能を落とさないように、錆止め塗装、亜鉛メッキ化、クロムを含有させてステンレスにするなどして防錆処理をすることが一般的ですが、鉄本来の姿ではありません。

赤錆が鉄本来の姿(鉄鉱石に戻った姿)ではありますが、黒錆による酸化方法があります。

黒錆は高温による状態から常温に戻る過程で発生する錆ですが、化学反応を活かして強制的に黒錆を発生させることが可能です。

黒錆は鉄を酸化させることで出来る表情であり、鉄本来の自然の姿に近い表情だと感じています。

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真鍮の特徴とその表情

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真鍮は、銅と亜鉛を混ぜ合わせた合金で出来ています。

銅はイオン化傾向が比較的小さく錆びにくい元素で、亜鉛は不動態皮膜を作る元素であるため、自然の状態では亜鉛が酸素に反応して表面はすぐに黒く錆びていく傾向がありますが、亜鉛が錆びることで、内部まで錆が進行していくことはなく、朽ちることはない材料です。

この黒錆は磨くことで味わいに変わっていき、使い込めば更に深みのある奥ゆかしい表情になるのが特徴です。

使われているものの代表的なものとして管楽器があります。真鍮は英語でBrassですので、ブラスバンドとは真鍮の楽団を意味しています。

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アルミの特徴とその表情

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アルミは、表面に白っぽい錆(酸化アルミニウム)の膜ができます。

イオン化傾向が大きいため、自然の状態では一気にこの白錆に覆われます。これが建築ではよく使用されるアルマイト処理と言われるものです。

この白錆は、先に紹介した不動態皮膜の一種で化学的に非常に安定した状態で、これ以上進行することのない状態になりますので、アルミ内部を保護し建築的には非常に耐久性の高い金属として取り扱われます。

この白錆の状態(アルマイト)が本来のアルミの自然の状態に近い表情ではありますが、光沢はなく、鈍い薄グレー色で、昔の学校や住宅でよく使用されていたため、安っぽいイメージが定着しており、現在では白錆の状態(アルマイト)で使用されることは少なく、電気的に着色する方法(電解着色)が一般的となっています。

ステンレスの特徴とその表情

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ステンレスは、鉄(Fe)を主成分(50%以上)とし、クロム(Cr)を10.5%以上含んだ合金です。

クロムが不動態皮膜をつくることで、内部の鉄を錆びさせない構造となっています。錆びない鉄と言われる所以がここにあります。

亜鉛メッキの特徴とその表情

亜鉛メッキは、鉄に亜鉛をメッキさせて亜鉛を先に錆びさせて不動態皮膜を形成し、それ以上錆びが進行しないようにするものです。

亜鉛メッキには、溶融亜鉛メッキ、電気亜鉛メッキの2種類あり、建築材料としては耐久性の観点より溶融亜鉛メッキが一般的によく使用されます。

電気亜鉛メッキは膜厚が薄く(約2〜25µm)均一的なメッキのため、装飾目的で用いられることがほとんどです。

一方、溶融亜鉛メッキは厚い膜厚(約50〜100µm)が特徴的であり、犠牲防食(先に亜鉛が錆びて内部の鉄を守る)の仕組みがあり高い耐食性があります。

また、亜鉛メッキはメッキ加工の後に化成処理と呼ばれる処理がなされます。亜鉛自体は空気中で酸化されやすいという特性があり亜鉛の酸化を防ぐために化成処理が施されます。

主な化成処理として、三価クロメート、ユニクロ、リン酸塩処理が施されますが、すべて、亜鉛の上に不動態皮膜をつくることになりますので、非常に耐久性の高い表面処理となります。

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コールテン鋼

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コールテン鋼の基本成分は、鉄(Fe)にCu(銅)Ni(ニッケル)Cr(クロム)が含まれた合金です。

表面は鉄の赤錆が出てきますが、その赤錆の下部に、銅・ニッケル・クロムが関与した極めて緻密な非晶質(アモルファス)層が形成され、錆の進行を抑制する構造となっています。

この赤錆は鉄本来の自然の状態に戻る表情でありますが、赤錆は朽ちるイメージがあることから一般的には美しさに結びつかないイメージです。

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この記事を書いた人

・一級建築士
・インテリアプランナー
幼少期から大学までは和歌山の実家で田舎暮らし。
大手ハウスメーカーで累計約40棟の住宅を技術営業として担当。
その後、組織設計事務所に転職し、学校・庁舎・道の駅・公民館・発電所等の主に公共建築物の設計に携わる。
現在は組織設計事務所に所属し、日々建築設計業務に取り組む傍ら、建築系webライターとして建築に関わるマニアックな情報から住宅購入に関わる内容まで幅広く発信している。
和歌山から、大阪、東京と住まいを移し、また和歌山戻り、田舎に自邸を建てる。

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