建築家が好む経年変化する日本的な素材でつくられた美しい住宅

日本の住宅で最も使用頻度の高い素材といえば木や土などの自然素材ですが、高度成長期以降の住宅では経済性と施工性の観点から、石膏ボードやクロス、塩ビ製品などの工業製品が主流となり、自然素材の木や土の使用頻度が徐々に低くなりつつあります。

木や土などの自然素材は完成時の真新しい感じもいいですが、何十年と使い込まれ経年変化した木や土の雰囲気も日本的でとても美しいものがあります。

pinterest

日本は自然が豊かで四季折々の美しさや、侘び寂の感性を感じられる風土があり、経年変化により艶やかな美しさを感じ取れる木や土が建築に使われることが、日本の風土や感性に馴染んでいるところが建築家が好む理由の一つなのかもしれません。

pinterest
目次

ここで言う建築家とは

建築家とは、デザイナーとして有名な安藤忠雄や隈研吾のような大物だけを示すのではなく、実直に機能的で安全で美しい建築を造ろうとする設計者を示します。

派手なデザイン性を求める施主や、それを作品として残しておきたい建築家も世の中には一部に存在しますが、これは例外として扱うこととします。

そもそもデザインとは、見た目の斬新さや美しさだけを表すのではなく、建築に求められる環境や条件、その状況に最も相応しい答えを導き出すことです。

住宅であれば、その敷地の特徴や歴史、その地の気候や風土などを読み取り、そこで豊かに暮らすための住環境をどのように建築として馴染ませるかをデザインします。

pinterest

住まい手の状況や、条件も様々で、その状況に最も相応しい答えを導くには圧倒的な知識と経験が必要となります。

大手ハウスメーカーのような大企業であれば、積み重ねられた実績や研究により組織としての圧倒的な情報が集められますが、一個人の建築家は簡単にそれら情報量を得ることができない状況です。

そんな中でも、機能的で安全で美しい建物を実直に生み出している一個人の建築家が各地に存在します。

自邸の設計

これは、生まれ持ったセンスだけではなく、幼少期からの経験と勉強量が抜きんでていることが多くあります。

建築家で生計を立てている多くが高学歴であることや、幼少期から特別に努力家であることが多く見受けられます

日本の住宅が自然素材から工業製品へと変わりつつある理由

今も昔も、日本の住宅(戸建)の9割以上が木造となっています。

共同住宅を入れると4割程度。マンションがいかに多くの割合を閉めているかが分かります。

マンションの鉄筋コンクリート躯体の経年変化したリノベーションも魅力が沢山ありますが、今回は日本的な素材、木と土について取り上げます。

戸建住宅では殆どが木造で造られていることが総務省データより読み取れますが、木で造られているにもかかわらず、石膏ボードやクロスに覆われた住宅が多く見られます

建売住宅や企画住宅、ハウスメーカー等、戸建の大部分を占める住宅の内装に使われているのが石膏ボードとクロスです。

石膏ボードとクロスは、工場で大量生産しコストを抑えることができ、施工も容易で専門の職人が必要なく、やり替えも容易にできるため、現在の建築材料の中では最も効率がよいとされています。

そのため、今やどの住宅メーカーも石膏ボードやクロスなどの工業製品を主体として住宅をつくり上げています。

自然素材の住宅を建築家が好む理由

一昔前の住宅では、内装材に使われるのはその地にある自然素材を、その地の大工や職人が丁寧につくり上げてきました

自然素材は、大量につくられる工業製品とは異なり、一つ一つ表情や性質が異なります

その一つ一つ異なる表情や性質の特徴を大工や職人が読み取り、適材適所に使われてきました。

pinterest

適材適所に使われる自然素材は、使えば使うほど味わい深く醸成し美しさが増していきます。

建築家がそれら自然素材を好む理由の一つとして、地域性や日本の文化が継承され醸成していると感じるところにあるのかもしれません。

自然素材の木や土がどのように住宅に使われてきたのか

戸建住宅の9割が木造とありましたが、住宅の柱や梁などの構造部分へ木が使われていますが、その他にも床・壁・天井などの内装の大部分が木を主体とした植物などの自然素材を駆使して造られてきました。

日本ではなぜ9割以上の建物が木や土などの自然素材で造られているのか。

それは、日本の気候が大きく影響していると言われています。

日本は四季の温度差や湿度の高低差が非常に大きい特徴があります。

木や土はこれら温度の変化に対応し、湿度を調整する機能を持っていることが選ばれる理由だと考えられます。

木の特性を活かした住宅のつくり方

pinterest

木は木材となっても呼吸をし生き続ける特性があります。

その特性を活かして日本の建築は造られてきました。

たとえば、柱に使う場合は、木の生えている根本を下にし、太陽が当たっている先端の方を上に向けて建てます。こうすることで、最も自然に近い状態で木が生き続けられます

また、木の植生している場所によっても木の使う場所を選んで使われています

谷地の湿地に植生していた木材は風呂場や台所のような水周りに使用し、太陽のよく当たる尾根に植生していた木は日当たりのいいリビングに使われています。

例えば、日本の古来からの床材として板間・土間があります。

板間は、木を薄くスライスして造られたもので、日本ではどの地域でも植生しているスギやヒノキが使われてきました。

スギは、比較的密度が低いため強い衝撃があると凹む性質がありますが、その分歩行感が柔らかく、足ざわりがよいのが特徴です。

また、スギ板には表と裏があり、表は木目が綺麗で触り心地もよいのが特徴で、裏はザラザラしており水気に強いのが特徴です。

板間のようなヒトの素足が触れる場所については、木の表が表面になるように使い、外壁や濡縁のような水気があるような所には、木の裏が表面になるように使い分けています。

木は樹種や、木の製材方法、木の裏表で強度や表情、反り方や表面の平滑性など性質が大きく変わってきます。性質の異なる木の特性を先人たちは知識と知恵として継承し残しています。

日本の住宅の土の使われ方

pinterest

日本の住宅では、土間や土壁、瓦屋根など、至るところに土が使われてきました

土は、水や藁、砂利や石灰など様々な材料と混ぜ合わせることで、性質が異なり、使われる場所によって配合を変えて表情を変えてきました。

また、土も木と同様に調湿機能を備えており日本の気候に適した素材です。

一昔前の住宅には土間の空間が必ず存在しました。

土間は、土足と上足の中間地点として日本ならでは空間として存在していました。

昔は、その土間の空間で農作業の下準備をしたり、土間にかまどがあり食事の下準備をしたりと、様々な生活の下準備が土間空間で行われてきました。

土足での作業、水気にも強い必要があったため、土を締め固めて造られる床材が適していました。

また壁面で使われる土壁は、エアコンのなかった時代の室内を快適に過ごすための自然の調湿機能のついた空調設備としての役割を果たしていました。

土間や土壁は、共に左官職人によって仕上げられ、その時の土の配合や、その時の温度や湿度、その時の職人の腕にも表情が左右されるもので、唯一無二の表情が出来上がります

土は、土間や土壁以外にも、焼成することで瓦や煉瓦、タイルとして水気に強い素材として生まれ変わり、外部や水周りにも使われる素材です。

pinterest

瓦や煉瓦も、その時の配合や、その時の温度や湿度、焼き加減にも表情が左右されるもので、土壁と同様に味わい深いものが出来上がります。

焼き物と同じように、瓦や煉瓦、タイルは汚れを加えてより美しくなります。

時間が経っても材料自体は劣化することなく、雨や紫外線により経年変化しますが、それは深い味わいとなり、より艶やかな美しさを増していくように思います。

経年変化する日本的な素材を建築家が好む理由

木と土などの自然素材は、先人の知恵により、その地場のものを、その地域の風土に合わせて調合され、その地にしかできない表情をつくり上げてきました。

木や土の特性を活かした日本ならではの使い方に歴史と文化が育まれ、時間の汚れを加えてより艶めかしく味わい深い表情がうまれます。

pinterest

住宅に限らず建築は、建物が出来た時は『完成』と言わず『竣工』といわれます。

日本には、建物が出来た時が完成ではなく、住み続けてその住まい手や利用者がその建築を育て、時間と汚れの経年変化を加えてより美しく完成に近づいていくと考える文化があります。

建築家が経年変化する日本的な自然素材を好む理由は、日本の文化が詰め込まれているところに魅力を感じているのだと思います。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

・一級建築士
・インテリアプランナー
幼少期から大学までは和歌山の実家で田舎暮らし。
大手ハウスメーカーで累計約40棟の住宅を技術営業として担当。
その後、組織設計事務所に転職し、学校・庁舎・道の駅・公民館・発電所等の主に公共建築物の設計に携わる。
現在は組織設計事務所に所属し、日々建築設計業務に取り組む傍ら、建築系webライターとして建築に関わるマニアックな情報から住宅購入に関わる内容まで幅広く発信している。
和歌山から、大阪、東京と住まいを移し、また和歌山戻り、田舎に自邸を建てる。

コメント

コメントする

目次