窓の外に広がる景色が日々変化していくように、建築もまた、時とともに表情を変えていきます。
「打放し」は無垢の素材そのものの表情をそのまま生かした仕上げ方法で、経年変化とともに味わいを増す特徴を持っています。
また、建築における「打放し(無垢の素材)」は、その素材の特性を最大限に生かし、自然と人との温かい調和を実現するアートだとも言われています。
打放しの代表的な、コンクリート、鉄、木、土の4つの素材に焦点を当て「打放し(無垢の素材)」の魅力について解説していきます。
コンクリート打放し:無機質の中に感じる、時の流れと人の手が生み出す美
コンクリート打放しと聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?
冷たく無機質な印象を持つ方もいるかもしれません。
しかし、コンクリート打放しは、時とともにその表情を変え、独特の美しさを増していく素材です。また、無機質な中に見られる唯一無二の表情、他の自然素材を際立たせる特別な素材です。
唯一無二の表情
コンクリート打放しは、施工過程における型枠の組み方やコンクリートの混合比率、天候条件など、さまざまな要因が仕上がりに影響を与えます。
それにより、一つとして同じ表情を持つことがなく、建物ごとに唯一無二の風合いが生まれます。
型枠の継ぎ目や木目、気泡の入り方など、偶然の産物として現れる模様や質感は、量産品にはない個性を空間にもたらします。
この予測できない表情、人の意図が介入できない仕上がりが、建築デザインに深みと魅力を加えます。
無機質な自然美
コンクリート打放しは、その無機質でシンプルな質感が特徴的です。
一見すると冷たく硬質な印象を与えるコンクリートですが、打放しにすることで生まれる微妙な色合いやテクスチャーが、自然界の石や岩肌を思わせる美しさがあります。
光と影が織りなす陰影や、時間の経過とともに変化する風合いは、人工物でありながら自然美を感じさせる要素となっています。
この無機質な独特な美しさが空間に静寂と洗練をもたらし、建築物としての存在感を高めることに繋がります。
自然素材を際立たせる素材
コンクリート打放しの持つシンプルで無機質な質感は、植栽や木材、鉄などの自然素材と組み合わせることで、それぞれの素材特性を際立たせる効果があります。
例えば、温かみのある木材と組み合わせると、コンクリートの冷たさが木の優しさを強調し、相互に引き立て合います。また、ガラスや金属と組み合わせることで、モダンで洗練された印象を創り出すことができます。
コンクリート打放しは背景としても主役としても機能し、多様な素材との調和により豊かな空間表現を可能にします。
コンクリート打放しは無機質な自然美、唯一無二の表情、そして他の自然素材を際立たせる素材として、建築に独特の魅力と可能性をもたらします。そのシンプルさの中に秘められた深い味わいが、人々を惹きつける要因となっています。
鉄の打放し:「矛盾」が織りなす、建築の魅力
鉄は一見すると無機質で冷たい印象を与える鉄ですが、実は奥深く、様々な表情を見せてくれる素材です。
それは、鉄自身が持つ「矛盾」とも言える魅力から生まれます。
化学的に安定した姿(錆びること)が美しい:時の流れを刻む「錆」という芸術
鉄は、時間と共に錆びていく素材です。
しかし、この「錆」こそが、鉄の最大の魅力だと言えます。
錆は、鉄が酸素と結びつき、化学的に安定(元の姿に戻ろうとする反応)しようとする過程で生まれる自然な現象です。
つまり、鉄は錆びることで、その環境と対話し、自身を変化さていると言えるでしょう。
錆の表情は、周囲の環境や時間の経過によって千差万別です。赤褐色の錆、黒錆、緑青など、まるで画家が描いた抽象画のように、複雑で美しい模様を生み出します。
それは、人工的に作り出すことのできない、自然と時間だけが創り出す芸術です。
※錆びには、材自体を劣化してしまう錆と、自身を守ろうとする錆があり、建築で錆びを扱う際には技術的な知見が必要となります。
唯一無二な表情:人の手が生み出す、鉄の物語
鉄は、溶かして形作り、熱を加えて強度を調整することで、様々な表情を生み出すことができます。
鍛冶職人が高温で熱した鉄を叩き、折り重ねることで生まれる、力強くも繊細な模様。
溶けた鉄を型に流し込んで作る、滑らかで均質な表面。
鉄は、人の手によって加工されることで、それぞれ異なる物語を刻みます。
それは、大量生産される工業製品にはない、手仕事ならではの温かさと、唯一無二の価値を生み出します。
しなやかで強度があることでスレンダーな構造にできる:力強さと繊細さの共存
鉄は、建築材料の中でも、特に強度と柔軟性を兼ね備えた素材です。
鉄骨構造は、細くても高い強度を保てるため、大空間を実現したり、ガラスを多用した開放的な空間を作ることができます。
しかし、鉄はただ硬いだけでなく、しなやかさも持ち合わせています。地震などの揺れにも柔軟に対応することで、建物を守る役割も果たします。
鉄は、相反する性質である「力強さ」と「繊細さ」を兼ね備えています。
鉄の構造物で「力強さ」と「繊細さ」を圧倒的な存在で感じるのは東京タワーです。
東京タワーの構造は「トラス構造」が採用され、鉄の強度を生かしつつ、経済的でありながらも強固な建築物を作り出すことを可能にします。
このトラス構造によって、視覚的にも透過性のある美感が生まれ、空に溶け込むようなデザインが見事に実現しています。
力強くも繊細な鉄の表情は、日本だけでなく世界中の建築家が魅力を感じ設計に反映されているところです。
木の打放し:温もりと安らぎを与える、日本の風土に根付いた素材
木は、日本人にとって古くから親しみのある素材です。
木の打放しは、本物の木を素地同等で使用することを示しています。
今や、木調のビニル製品の精度高くつくられる商品もありますが、木材を使った構造物や内装デザインにおいて、本物の木を使用することには多くの価値があります。
それらは特に自然の美しさ、心地よさ、そして経年変化という観点から、広く評価されています。
自然な美しさ
本物の木材は、各種の木目や色合いがあり、一つとして同じものがないという特徴があります。
これは、人工素材の均一な表情にはない、独特の個性と温かみをもたらします。
木の持つ自然な美しさは、空間を豊かにします。
心地よさと健康的な環境
木材には空間の湿度を調整する特性があります。
つまり、湿度が高いときは湿気を吸収し、乾燥しているときには湿気を放出するのです。
この自然の調湿効果によって、居住空間が快適になり、アレルギーを引き起こしにくい環境が作られます。
また、木の香りにはストレスを軽減し、リラックス効果を高めるとされています。
経年変化を楽しむ
適切に管理されている木材は耐久性に優れています。
例えば、古い日本の寺院やヨーロッパの木造建築を見ると、何百年経っても美しさと機能性を保つことができる素材であることがわかります。
適切に管理された木材は、時間が経つにつれ、風合いを増し、さらに魅力的になります。これは人工的な材料では味わえないものです。
土の打放し:大地の力強さを感じる、原点に立ち返る空間
土の打放し(土壁・瓦・煉瓦)は、建築において独自の風合いや機能性、美的価値を持つ素材として親しまれてきました。
ここで言う土の打放しとは、土素材を使ってつくられた土壁や瓦・煉瓦などを示しています。
大地の力強さを感じさせ、どこか懐かしさを感じさせる独特の雰囲気を持っています。
その土地の風土や気候に調和
土の打放しは、地域の自然から得られる素材を活用しており、その土地の風土や気候と深く結びついています。
土壁は優れた断熱性と調湿性を持ち、夏は涼しく冬は暖かい快適な室内環境を提供します。これは、日本の四季折々の気候に適応するために培われた智慧です。
瓦は、多雨多湿な日本の気候に適した屋根材であり、雨水を効率的に排水し、建物を保護します。また、煉瓦は熱伝導率が低く、温度変化の激しい気候下でも安定した性能を発揮します。
これらの素材は、その地域の気候特性を最大限に活かし、自然環境と調和したものでつくられているところから、親しみのある表情になっていると言えます。
侘び寂に通じる極めて日本的な素材
土の打放しは、その素朴で自然な風合いから、日本の美意識である「侘び寂」を体現しています。
完璧ではない不均一さや素材そのものの質感は、時間の経過とともに深みを増し、独特の美しさを放ちます。
土壁の柔らかな色合いと質感、瓦屋根の落ち着いた佇まい、煉瓦の重厚感と温かみは、人工的な素材では得られない情緒を醸し出します。
これらの素材を用いることで、建築空間に静謐さや奥行きをもたらし、人々に深い癒しと安らぎを提供します。
経年変化を楽しむ
土の打放しは、時間の経過とともに変化する素材として、その経年変化自体が建築の魅力を高めます。
土壁は風雨や日差しにより色味が変化し、独特の味わいが生まれます。
瓦は年月を経て風合いが増し、建物全体に深みを与えます。煉瓦もまた、風化や苔の付着によって表情を変え、歴史を感じさせる佇まいとなります。
これらの経年変化を美として捉えることで、時間とともに価値を増す建築を創り出すことができます。また、長年にわたるメンテナンスや修復を通じて愛着が深まり、世代を超えて受け継がれる建物となります。
自然素材と人の手が織りなす、打放しの魅力
コンクリート、鉄、木、土。それぞれの素材が持つ魅力を最大限に引き出す「打放し」は、時とともに変化する表情を楽しむことができます。
自然の力強さ、そして、人の温もりを感じることのできる空間は、住む人々に癒しと安らぎを与えてくれるでしょう。
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