鉄とアルミとステンレスの違い、デザインの使い分け

建物をつくる上で今や欠かすことの出来ない鉄とアルミとステンレス。

基礎を造るための鉄筋、窓や屋根などに使われるアルミ、キッチンや水周り配管に使われるステンレスなど建物には適材適所に鉄・アルミ・ステンレスが使われています。

目次

鉄とアルミとステンレスの違いと特徴

鉄・アルミ・ステンレスと言われる建築材料は、殆どのものが耐久性やコスト、使い勝手などの観点から別の元素を含有させた合金で造られていますが、ここでは簡略化して解説します。

鉄とアルミとステンレスの違いは、錆びやすさ・重さ・強さです。

鉄とアルミとステンレスの錆びやすさ

1位 鉄(一番錆びが進行し腐食しやすい)

2位 ステンレス・アルミ

ステンレスとアルミは錆が進行しにくい構造のため、建物の外装や窓、キッチンなどの水周りに使われています。

ただし、建築では、あえて錆びを表現することで、エイジング加工と言われる品物まであるように、金属らしさと時間を経た味わい深さを感じられることを意図して鉄を錆びさせて建築に使用する場合もあります。

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鉄とアルミとステンレスの重さ

1位 鉄・ステンレス(比重 約7.8)

2位 アルミ(比重 約2.7)

アルミは鉄やステンレスに比べて約1/3程度の重さしかありません。

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素材の比重から表れる軽量感と重厚感は、見た目の視覚だけでなく感覚にも影響を及ぼすと言われています。空間を重く見せたいのか、軽く見せたいのかでアルミとステンレスを使い分ける場面があります。

鉄とアルミとステンレスの強さ(硬度)

1位 鉄・ステンレス(HBW約200)

2位 アルミ(HBW約50) 

アルミは鉄やステンレスに比べて柔らかいため、強度の必要な構造的な所では使用されません。(最近はアルミ合金で建物が造られるまで技術は進歩してますが)

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この柔らかさや硬さの違いも視覚的・感覚的に伝わるので、印象を柔らかくしたい場合はステンレスよりもアルミの方が柔らかい印象になります。逆に強く魅せたい場合などは鉄やステンレスを使うことでより重厚感を感じることが出来ます。

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鉄とアルミとステンレスの錆びやすさは元素記号と不働態被膜から導かれる

鉄とアルミとステンレス(ステンレスは鉄にクロムを含有された合金)の錆びやすさは、元素記号と不働態被膜で順位付けられます。

鉄とアルミとステンレスの元素記号の並び

13番AL(アルミ) 24番Cr(クロム) 26番Fe(鉄)

元素記号の番号が若くなればなるほど錆びやすい性質を持っています。

 

ちなみに金銀銅は 79番Au(金) 47番Ag(銀) 29番Cu(銅)です。

鉄に比べて、金銀銅はどれだけ錆びにくいかよく分かるかと思います。

金銀銅は鉄に比べてあまりにも高価なため建築にはあまり使用されることはありませんが、アメリカの自由の女神や、日本の伝統的建物の屋根などにはCu(銅)が使われています

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アルミとステンレスは不働態被膜で覆われることで錆びにくくなっている

金銀銅は鉄に比べて明らかに錆びにくいのは化学的にも分かりやすいのですが、アルミやステンレスに含まれるクロムが鉄よりも元素記号が若い番号であるにもかかわらず、鉄より錆びにくいとされていることに気付きます。

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じつはアルミやステンレスに含まれるクロムは、表面を酸素と結合してできる不働態被膜と言われる緻密な錆びを身にまとっているため、錆が進行しにくい構造となっています。

酸素と結合するため、アルミやクロムは地球上にいる限り瞬間的に身を守る不働態被膜に覆われていることになります。

また、傷によってアルミが裸になった瞬間も同様です。

なので、一円玉はずっと錆びずに使われ続けることが出来るのです。

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ちなみに十円玉や五十円玉、百円玉、五百円玉は、銅を主体とした金属で出来ていますので、そもそも錆びにくく耐久性の高いもので造られています。

鉄は本来の姿に還元することで「鉄」らしいデザインとなる

鉄は自然界の鉄鉱石を原料とし石炭と化学反応させることで造られます。

鉄の原料である鉄鋼石のイメージ

鉄は自然環境の中で酸素と結合して錆びることにより、自然界の鉄鉱石へ戻ろうとします。

化学的には鉄鉱石=錆びの状態が最も安定していると言われています。

鉄の赤錆は本来の姿であるが建築では使えない

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鉄は酸素と水に反応して赤錆が発生します。

赤錆はアルミの錆びのような緻密さがないため、酸素や水を遮断できず腐食が進行しボロボロの状態になり自然へ戻っていきます。

酸素の水に反応し鉄の全てが赤錆となった状態がもっとも化学的に安定している状態です。

本来の姿ではありますが、この状態では強度が確保できず建築の材料として使用することはできない状態です。

鉄を錆びに強くする一般的な方法

鉄はアルミのような自然状態で緻密な不動態皮膜をつくることができない構造です。

鉄を内部まで錆びが浸透させない方法として、亜鉛メッキ(亜鉛が不動態皮膜を作る)したり、クロムなどを混ぜてステンレス鋼(クロムによって不動態皮膜を作る)とすることで錆びにくい鉄をつくり上げることが建築界では一般的となっています。

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また、鉄もアルカリ性の高い環境に置かれると、不動態皮膜を作ることが知られています。

鉄筋コンクリートがよく使われるのは、高アルカリであるコンクリート中で鉄筋が不動態皮膜を作って錆びないからです。

鉄を緻密な黒錆でまとう方法

鉄自身で錆び(不動態皮膜)による耐久性を上げる方法としては、黒錆をまとう方法があります。

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黒錆は、厚物の鉄(20㎜以上)を高温で加工し冷めた時にできる錆びです

黒錆を発生させるには、厚物の鉄を高温で加工する必要があるため、一般的には難しいところがありますが化学的な処置によって、黒錆を鉄にまとう方法があります。

これは黒染め処理といわれる化学処理で、非常に緻密な錆びであるため、酸素や水が内部に入り込まず錆びが進行しない構造となっています。

身近な所では、鉄瓶やフライパンが黒錆をまとったものです。耐久性があり味わい深さがあります。

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錆びが進行せず鉄本来の赤錆で表面をまとう方法

鉄の赤錆は本来の姿ではあるが、強度がなく建築に使用できないと説明しましたが、コールテン鋼とすることで、強度を保ったまま赤錆による意匠が可能となります。

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コールテン鋼の基本成分は、鉄(Fe)にCu(銅)Ni(ニッケル)Cr(クロム)が含まれた合金です。

表面は鉄の赤錆が出てきますが、その赤錆の下部に、銅・ニッケル・クロムが関与した極めて緻密な非晶質(アモルファス)層が形成され、錆の進行を抑制する構造となっています。

合金による錆び対策を施したものとなりますが、この赤錆は鉄本来の自然の状態に戻る表情であることから、この意匠を好んで使用する建築家もいます。

アルミは「らしさ」のデザインで空間を軽く魅せる

アルミは、建築だけでなくビール缶や一円玉、電車や車など身近に使用される材料でありヒトにアルミの「軽い」イメージが浸透しています。

表情が冷たく工業製品的なイメージもあることから、自然派の建築家や設計者からは毛嫌いされる場面も見受けられますが、アルミ独特の周辺環境を映し出す表情や、鈍く光を反射する表情は使い方によってはあたたかみある豊な表情にもなりえる材料でもあります。

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アルミは錆びにくいが柔らかく傷が付きやすいため表面処理を行う

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アルミは表面を不働態被膜と言われる錆びで覆うことでそれ以上錆びにくくする性質をもつ材料です。

そのため表面処理をせずとも錆びにくい材料としてそのまま使用することも出来ますが、更に耐久性を向上させ表面の表情を豊かにするための表面処理を行った商品が一般的となります。

また、アルミは鉄やステンレスに比べ柔らかく加工しやすい性質ですが、素材そのままだと、柔らかく傷つきやすい素材で、表面処理をすることで表面を硬化させ傷を付きにくくします。

表面処理によるアルミの表情

建築で使われるアルミの代表的な表面処理方法としては、アルマイトがあります。

アルマイトは、電気の伝導性を有する液体にアルミ素材を入れ、電流を流すことによって、酸化被膜を表面に形成する表面処理で、この上にクリア着色や着色処理を施す複合被膜等の処理があります。

アルマイトは電車や飛行機、パソコンなど様々な分野で使われ、表情を豊かに変えることができます。

このアルミの表面処理であるアルマイトは後処理により光沢感や色彩も自由に操作することも可能です。
このアルミの表面処理のいい所は、アルミ特有の透明感・軽快感などのアルミらしさが残ることです。
空や街の周りの環境を優しく写しだすアルミの表情は他の金属にはないあたたかみがあります。

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アルミらしさを建築に取り入れる

アルミの特徴的な表情の1つに、周囲の環境を緩やかに映し出すものがあります。

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外装パネルなどの面として使用した場合、空や街の風景などがアルミにぼんやり映し出され周辺環境に融和します。

また、アルミの柔らかく加工しやすい性質を活かして鋳物や押出し材成形することで、豊かな表情を作り出すこともできます。

鉄とアルミとステンレス、本来の表情が最も美しい

金属の表面に塗装をしてしまうと、鉄もアルミもステンレスも分からなくなります。

その建物として必要とされる強度や錆びにくさなどの必要性能を考慮した上で、材のもつ本来の姿に近づけることが最も豊かな表情を感じます。

鉄もアルミもステンレスも錆びている状態が化学的に安定しています。

鉄であれば、赤錆・黒錆の状態、アルミやステンレスであれば、不働態被膜で覆われている金属の表情。

それに加え、それぞれ材の比重や硬度による感覚的な表情を、その建築にふさわしい適所に使用することで、その材の本来の美しさを表現できるものとなります。

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この記事を書いた人

・一級建築士
・インテリアプランナー
幼少期から大学までは和歌山の実家で田舎暮らし。
大手ハウスメーカーで累計約40棟の住宅を技術営業として担当。
その後、組織設計事務所に転職し、学校・庁舎・道の駅・公民館・発電所等の主に公共建築物の設計に携わる。
現在は組織設計事務所に所属し、日々建築設計業務に取り組む傍ら、建築系webライターとして建築に関わるマニアックな情報から住宅購入に関わる内容まで幅広く発信している。
和歌山から、大阪、東京と住まいを移し、また和歌山戻り、田舎に自邸を建てる。

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