昨今物騒な強盗事件などがあり、住まいの防犯性に特に注目されつつありますが、高い防犯性と豊かな住環境は間取りや外観にこだわりを入れると矛盾が生じることがあります。
特に、防犯性のポイントとなる「窓」は建物のデザインに大きな影響を与えます。
デザインだけでなく、光や風などの住環境にも大きな制限を与えることになります。
ホームセキュリティーや、防犯カメラなどの機械的な解決も一つですが、もっと自然に防犯対策出来ないかと、、、もっと建築の作り方で解決する方法はないかと、、、探っていると京町家にヒントがありました。
京町家は当時の歴史背景から高い防犯性を必要とされましたが、その中でも豊かに暮らしていこうという建築的な工夫が沢山見ることができます。
侵入窃盗(泥棒)、侵入強盗(押入り)の両方への防犯
ここで言う防犯性とは、侵入窃盗(泥棒)と侵入強盗(押入り)の両方への対応を考えます。
警視庁のデータでは、侵入窃盗と侵入強盗と分けて分析されています。
侵入窃盗(泥棒)への防犯対策の考え方
侵入窃盗(泥棒)の侵入口の多くは、窓や出入口からの侵入です。
ここで特徴的なのは、一戸建てと共同住宅の侵入口割合が、窓と出入口が反転しているところです。
すなわち、戸建住宅では窓の侵入対策、共同住宅では出入口の侵入対策を施すことが有効であることが分かります。
次に、侵入の手口ですが無締まりとガラス破りが大きな割合を占めます。
ここでも、共同住宅の4階以上の場合は戸建ての場合に比べて、無締りやガラス破りの割合が下がるところです。
侵入口や侵入の手口のデータを見てわかる通り、4階以上の共同住宅になると様子が異なります。
また、4階以上の共同住宅は窃盗被害の総数も桁違いに少なくなります。
これでわかるのは、そもそも侵入のハードルが高く感じられるところが狙われにくいことが分かります。
つまり、侵入のハードルを高く感じさせる建築的な工夫が有効であることが分かります。
侵入強盗(押入り)への防犯対策の考え方
侵入強盗(押入り)は金品窃盗だけでなく、強盗殺人、強盗傷人、強盗強姦など犯罪目的も異なります。
侵入窃盗に比べ、総数は非常に少なくなってはいますが、令和2年度でも401件の侵入強盗が発生しています。
やはり、ここでも戸建住宅に比べて共同住宅の割合が低い結果となっています。
対策としては、同じように侵入のハードルを高く感じさせることが有効であることがわかります。
防犯性をあげる建築的な工夫と有効な手段
では、どのような対策が防犯性をあげることに繋がるのか。
それは、狙われやすい家の傾向を把握し、それに対する建築的な工夫を施すことが防犯性を少しでも高めることに繋がります。
狙われやすい家とは
警視庁のデータでは、侵入犯罪の殆どは下見を万全に行った上で侵入されていることが分かっています。
つまり、下見をしやすい環境か否かが、狙われやすいか否かに直結します。
下見をしやすい環境とは、閑静な住宅街よりは人通りの多い幹線道路沿いの住宅や、公園や公共建築物の近くなど、見かけないヒトがいても気にならない環境です。
次に、侵入しやすそうか否か、逃げやすいか否かです。
警視庁データの中で、侵入者の心理的プロファイリングが非常にわかりやすかったので紹介します。
侵入しやすい家かどうかのチェックポイント
・庭木など死角になるものがあるか。
・足場になるものがあるか。
・窓のクレセント錠の位置が開けやすいところにあるか。
・犬がいないか。
逃げやすいかどうかのチェックポイント
・駅に近いか。
・立ち話をしている人がいないか。
・通行人が少ないか。
警視庁ホームページ「侵入者プロファイリング」より参照
ここで分かるのは、侵入しやすいか否かの判断については、窓や出入口までの経路と、たどり着くまでの時間、解錠のするまでの時間を見られています。この「経路」「時間」を意識した建築的計画が有効となります。
狙われやすい家まとめ
- 下見しやすい環境かどうか
- 侵入しやすいと感じられる環境かどうか
- 逃げやすそうと感じられる環境かどうか
防犯性をあげる建築的な工夫
狙われやすい家の傾向を把握した上で、それを建築的に落とし込むと「下見の目的を達成させない」「侵入を難しくする・感じさせる」の2つが重要となります。
防犯面で住宅に施す工夫は、他のホームページやブログでも沢山あげられています。
例えば、警視庁のホームページでは住宅の部位ごとに防犯度の自己診断が出来るものがあり参考になります。
また、ホームセキュリティや防犯カメラで有名な「アルソック」のホームページでは防犯対策についてのまとめたコラムがあり、非常にわかりやすくまとめられています。
ただしここでは、防犯性を高めながらも、建築のもつ本来の美しさを損なわないに焦点をあてた対策を紹介します。
①下見の目的を達成させない
建物の立地条件は、時代とともに変わることもあり、簡単に解決することが出来ませんが、家の様子を分かりにくくする工夫は建築的な操作で対応することは可能です。
下見の目的は、その家の住人がどのような生活スタイルか、何人住んでいるか、性別、年齢層、などの住人の様子を知ることです。
それら住人の様子が分かりにくくする建築的な工夫は、外観から生活感を感じさせないことです。
特に、洗濯物はその住人の家族構成や性別、年齢層などが筒抜けとなってしまうものです。
そのほか、子供のおもちゃや三輪車や自転車なども、住人の情報を流してしまうヒントになります。
また、通りに面する窓に子供のぬいぐるみが見えることや、ずっとカーテンが締まっている部屋が分かることも、その住人の情報のヒントとなります。
それらを人通りから簡単に見れないシェード的なものを建築でつくることで、下見の目的が達成されないことに繋がります。
②侵入を難しくする、侵入を難しく感じさせる
侵入に手間取り、5分かかると侵入者の約7割はあきらめ、10分以上かかると侵入者のほとんどはあきらめるといいます。
警視庁ホームページ「侵入者プロファイリング」より参照
侵入者の大半は窓や出入口からの侵入です。
まずは、その窓や出入口にたどり着くまでに時間がかかると感じさせるか否かにかかっています。
電柱や物置、樋などの足掛かりなるものの近くにバルコニーを設けない。
家の様子がわかる大きな窓を通りに面して取らない。
窓ガラスは、防犯ガラスや複層ガラスにする又は普通ガラスに防犯フィルムを貼るだけで破壊するまでの時間が倍以上かかりますので、非常に有効な手段です。
玄関扉や勝手口の錠前についても、鍵メーカー各社が様々な商品を出していますが、ピッキング耐性・鍵穴壊し耐性は10分以上の商品を選ぶことで、万が一狙われたとしても、解錠に時間がかかってしまい、侵入をあきらめることに繋がります。
例えば大手メーカーの商品としては、MIWA社製の PRシリンダー、JNシリンダー、GOAL社製の V-18シリンダーGVシリンダーがそれらピッキング耐性・鍵穴壊し耐性は10分以上の商品に該当します。
そのほか、建物の防犯性の向上を図るため、関係する省庁と民間団体により設置された官民合同会議が高い防犯性能基準を制定した「CP認定錠」があります。
侵入強盗(押入り)についても、上記同様の侵入のしにくさが有効となりますが、もう一段階の対策として、インターホンは録画カメラ付きとすること、玄関扉までにもう一段階の門扉や防護柵を設ける、玄関錠の上にチェーン錠をつける、寝室に入る扉も施錠するなど、二段、三段構えが時間を稼ぎ通報することも可能となり非常に有効となります。
特にインターホンについては、今や住宅には当たり前のようについているもので、建物の美観への影響も少なく、防犯性能を付加した商品とするだけで効果を発揮する、コストパフォーマンスが非常に高い有効な手段です。
昨今のインターホンは、録画機能付き商品だけでなく、女性だけと思わせないためのボイスチェンジ機能付き、玄関前を明るく照らすLEDライト付き、スマホ連動型商品、人感センサー付き商品など様々な有効な商品があります。
最も有効な手段は、防犯意識の高さを感じさせること
窓ガラスや侵入口を強化することで、侵入時間を稼ぐことが出来ますが、まずは侵入が難しそうと感じさせることが何より重要で、最も有効な手段となります。
そもそも侵入者の狙いに入らない家(侵入者の眼中に入らない家)の作り方をすれば、自然と侵入される可能性は低くなります。
また、住人の防犯意識の高さを示すことで、狙いを定められる前の事前防御につなげることが出来ます。
住人の防犯意識の高さを示す方法は、防犯シールを示す、防犯カメラを設置する、インターホンはカメラ付などの防犯商品とする、CP認証商品であることを示す、窓周りは生活感を出さない、ゴミ出しは収集時間に出すなどなど、普段からの防犯意識の高さを示すことは、侵入者の狙いに入る可能性を低くすることに繋がります。
高い防犯性を備え持ち、豊かな住環境を両立する京町家
防犯カメラや多機能インターホン、複層ガラスなど、便利で高性能な防犯商品を使わずとも、防犯性が高く、光や風などの住環境豊かな美しい空間を実現しているのが「京町家」です。
京町家の防犯性のポイント
京町家は、通りに対して木の格子に覆われた伝統的な形式です。
この木格子により、外部からの侵入者を寄せ付けないだけでなく、外部からの目線カットの役割もあり家族のプライバシーを守っています。
この木格子は応仁の乱以降、自衛の必要性から設置されたと言われています。
この伝統的な木格子は、美しさはもちろんのこと、ネジや釘が見えない組み方をすることで、簡単に外すことが出来ないため防犯性の向上に寄与しています。
京町家の防犯性と住環境の両立
通りに対して完全に閉じてしまえば、侵入者は入ってきませんが、光や風などの住環境が悪くなります。
京町家は自然界の材料、原理をうまく利用し、閉じた中でも豊かな住環境を実現しています。
京町家は江戸時代に作られたもので、木や竹、藁、土などの自然界の材料だけを使用して作られています。
この木や土などの自然材料に囲まれた空間は、湿度を自然調整し、一年を通じて50%程度に保ってくれます。
また、京町家の特徴的な小さな坪庭から光や風を取り込みます。
小さく囲われた坪庭は、植物の光合成により新鮮空気を室内に循環させる役割があります。この小さく囲まれることで煙突効果が生まれ、効率よく空気が循環されています。
夏場の特に暑い時には、通りの石畳みへ打ち水をすることで、内部と外部の気圧差を利用した気流が生み出されます。
繊細に組み込まれた木格子により気流のスピードが調整され、心地よい自然の風を室内に届けられています。
京町家のサスティナブル(持続可能な)デザイン
京町家で使われる自然界の材料は、植物のサイクルに合わせて作られています。
木は育つのに数十年かかるため長く使える組み方で作られます。また、竹や藁は数年毎に変えられる場所に使用します。
使い終わった材料は、かまどで使用し、灰は農作物の肥料として使用します。
この防犯性の高い町家のつくりは、自然界の循環に呼応するように建築され、現在のサスティナブル(持続可能な)デザインに通じるものです。
通りに面して自然の木格子で覆う町家のデザインは、長い年月を経た今も自然界の循環に呼応しながら美しく佇んでいます。
美しく豊かな空間と防犯性を両立する!
現在は、防犯性に対する様々な情報や、商品が溢れ沢山の選択肢の中で家つくりをすることが可能となりました。
ただし、防犯商品に予算をかけ完璧に防犯武装しても、過信してしまうことが最も危険な行為となります。
防犯性を高める最も効果的手段は、住人の防犯意識が高いと思わせることです。
また、家つくりは防犯性だけでなく住人にやさしく快適でなければなりません。
長い歴史の中で培われてきた京町家をヒントに、通りに対して閉じた形式、限られた敷地の中でも、自然の摂理をうまく利用し、防犯性と快適な住環境を両立することが重要だと考えます。
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