安全で美しい手摺のデザイン

階段やバルコニー、吹抜けなど落下防止のために手摺が取り付きますが、その手摺のデザインによって空間の良し悪しに大きく影響を与えます。

一方で、手摺の強度不足による落下事故、子どものよじ登りによる落下事故、隙間から小さい子どもが落下する事故など、手摺に関する落下事故が絶えず起きていることも事実です。

安全で美しい手摺を出来る限りコストを抑えて実現するデザインを紹介します。

pinterest(安全で美しくローコスト手摺例)
目次

安全な手摺の種類

建築のなかで、最も事故が多いのが手摺に関係するものです。

特に多いのが、小さい子どもが目を離した瞬間に手摺の隙間から落下したり、何かを足掛かりによじ登って落下する事故ですが、大人の事故も後を絶ちません。手摺の強度不足による落下事故が毎年のように確認されています。

それは、建築基準法では手摺の明確な寸法や強度基準が定められていないため、設計者の判断にゆだねられているところが大きく関与しています。

ただし、それら事故をうけ様々な団体が独自で安全基準を作っているところがありますので、詳しく説明いたします。

建築基準法で定められる手摺の基準

まずは法的に絶対に満足させないといけない手摺の基準は、建築基準法に定められている基準です。

建築基準法に定められている基準については、建物を建てる前に法律に合致していることが確認されているか否かの申請がありますので、必ず守られているものになります。

まずは、階段の手すりについて建築基準法では下記にように定められています。

1 階段には、手すりを設けなければならない
2 階段及びその踊場の両側には、側壁又はこれに代わるものを設けなければならない。
3 階段の幅が三メートルをこえる場合においては、中間に手すりを設けなければならない。ただし、けあげが十五センチメートル以下で、かつ、踏面が三十センチメートル以上のものにあつては、この限りでない。
4 前三項の規定は、高さ一メートル以下の階段の部分には、適用しない

建築基準法施行令第25条(階段及び踊場の手すり)

ここでのポイントは、『階段には』とありますので、バルコニーや吹抜けなどの階段ではない所には適用されないと解釈できてしまうことです。
また、手摺の寸法の規定が書かれていません。よって、階段の手すりの高さは設計者にゆだねられています。

では、手摺の高さなどの基準は建築基準法ではどのように規定しているのか。

それは、建築基準法施行令に下記のように規定されています。

屋上広場又は二階以上の階にあるバルコニーその他これに類するものの周囲には、安全上必要な高さが1.1m以上の手すり壁、さくまたは金網を設けなければならない

建築基準法施行令第126条(屋上広場等)

ここでは、手摺の高さを1.1m以上としなければならないと規定されていますが、実はこの法文が適用されるのは、建築基準法第35条で規定されている防火や避難を特に考えなければいけない建物に適用されることとされています。

『手摺の高さ1.1m以上を適用させなければいけない建物』

別表第1(い)欄(1)項から(4)項までに掲げる用途に供する特殊建築物階数が3以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物又は延べ面積が1,000㎡をこえる建築物については、廊下、階段、出入口その他の避難施設、消火栓、スプリンクラー、貯水槽その他の消火設備、排煙設備、非常用の照明装置及び進入口並びに敷地内の避難上及び消火上必要な通路は、政令で定める技術的基準に従つて、避難上及び消火上支障がないようにしなければならない。

建築基準法第35条(特殊建築物等の避難及び消火に関する技術的基準)

要は、ヒトが沢山集まるような劇場、共同住宅、カフェなどの商業施設など、建物規模が大きいもの、窓が少なく火災時に避難に支障をきたす建物について、手摺の高さの規定が適用されることになります。
逆読みすると、規模の小さい戸建住宅で避難に影響なければ手摺の基準は満足させる必要はないと解釈することが出来てしまうのです。
また、この避難を要する建物に適用される手摺の法文には『階段』の文言が入っておりませんので、階段には手摺の高さの規定が適用されないことと解釈することができ、一般的に階段の手すりはヒトがつかみやすい高さの約80cm程度が多く採用されています。

建築基準法では、上にあげた階段の基準、手摺の高さの基準がありますが、それ以外の手摺の隙間や構造強度的な基準がないのが現状(2022年1月現在)です。

構造強度で定められる手摺の基準

手摺の構造強度については、ヒトが手摺にもたれかかった時に耐えうる強度を備えていなければなりません。

ただし、現在 (2022年1月現在) の建築基準法上では手摺に対する構造強度の基準はありません

設計者は、状況に応じて計画の手摺はどの程度の強度を担保する必要があるか都度検討して構造強度を設定することになります。

手摺の構造強度についての参考文献については、『一般財団法人 ベターリビング 優良住宅部品評価基準』『日本建築学会構造計画パンフレット』『日本建築学会 JASS13 金属工事における耐側圧性の基準』『日本金属工事業協同組合 手すりの安全性に関する自主基準』などに詳細に記載されています。すべて専門性の高い文献になり、理解するのが難しいので、簡単に抜粋すると下記の荷重に耐える様にそれぞれの基準で記載されています。

□一般財団法人 ベターリビング 優良住宅部品評価基準(BL部品)

・住宅内のバルコニー150kgf/m

・共用廊下300kgf/m

□日本建築学会構造計画パンフレット

・住宅内のバルコニー150kgf/m

・複数の人間による加力300kgf/m

・駅や野球場600kgf/m

□ 日本建築学会 JASS13 金属工事における耐側圧性の基準

・共同住宅やオフィスなどの標準的な手摺など100kgf/m~150kgf/m

・公共性の高い建物200kgf/m以上

上記基準類を踏まえ、安全で美しくコストを抑えた手摺とするために

『住まいの安全学 あなたの家の危険をさぐる(宇野英隆[著]/直井英雄[著] 講談社)』では、ヒトの押す力の実験値が示されていますが、ヒト一人が押す力は約100kgf程度となっています。

上記の基準類と照らし合わせても、安全を考慮すると150kgf/m程度の荷重がかかったとしても倒れない設計が必要と考えられます。

都度、建物用途等を勘案して慎重に決めなければならないですが、公共的な施設で複数人が集中して押される荷重が想定される場合は、日本建築学会JASSで定められる200Kgf/m以上は最低限見込み、避難施設等となる場合は300kg/m以上は見込むべきと考えます。

この手摺の構造強度については、強ければ強いほど安全ではありますが、デザインとコストにも大きく影響してきますので、上記の荷重を最低限守ったうえでデザインすることが重要です。

その他の手摺の基準類

法令や構造強度の安全基準以外にも、手摺に関する基準があります。

それは、地域ごとに定められている福祉のまちづくり条例(バリアフリー法関係)です。

この福祉のまちづくり条例は、主に不特定多数の利用が考えられる公共的な建物に適用される基準で、子どもから老人、身体障碍者までバリアフリーに使用できるように定められている基準です。

本条例では、手摺だけではなく玄関扉のサイズやトイレの配置など、非常に事細かく基準があります。

この福祉のまちづくり条例については、公共的な建物を対象に考えられていますので、戸建住宅には少し過剰な内容が多くありますが、参考に出来るところもあります。

例えば、本条例で記載されている『手摺は連続させること』『手摺足元は立ち上がりを設けること』は、戸建住宅であっても安全面で非常に有効であると考えられます。

戸建住宅では、手摺が途中で一旦途切れることや、足元があいている手摺をよく見かけますが、子どもから老人まで幅広く使用されることを想定すると少し危険な感じがします。

美しい手摺の種類

美しい手摺は世の中五万とありますが、上であげた安全基準を満たしたうえで上質にデザインされているものについて解説したいと思います。

手摺を美しく魅せる

手摺を美しく魅せるコツは、2つです。

1つは、手摺の存在を消してしまうことです。

もちろん、落下防止機能などの安全を確保した上でのデザインが必須ですが、手摺となる部分を面状に表現することで、手摺の存在を消し去ることが出来ます。

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もう一つは、デザイン仕切ることです。

こちらは、かなり高度技術ですが中途半端にデザインするのではなく、建物のコンセプトに合わせてデザイン仕切ることで建物と一体的となり、美しい手摺が実現します。

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美しい手摺の種類

手摺は大きく分けて、面状(ガラスやパネル)、格子状(縦格子、横格子など)、ブラケット式(壁面などがある場合)の3つあります。

◆面状手摺

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面状の手摺では、手摺の隙間から落下する恐れがありません。ただし、ガラスで構成する場合は注意が必要です。

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ガラスは割れにくいガラス(強化ガラスや合わせガラスなど)を採用する必要があります。

また、万が一ガラス割れた際に落下しないように、飛散防止フィルムや合わせガラスを採用し、ガラス自体が落下しないようにフィルムが躯体側とつながる構造(ガラス押え部分にフィルムも抑えられている状態)としなければなりません。

◆格子状手摺

格子状手摺の場合、支柱となる構造的要素がそのままカタチになります。

構造的・経済的に最も効率的であるのは@900程度毎に太い支柱を立てて繋いでいく方法ですが、それでは美しくない。

安全でスレンダーで整頓されたデザインを成立させるために、上下で緊結し構造的な安定性を確保しながら構造部材をスレンダーにさせる方法や、見える方向に細い部材(逆の直行方向は太い)で、見た目をスレンダーにする方法など工夫次第では、構造的・経済的にも効率的で安全で美しい手摺を実現することも可能です。

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某公共建築物例

◆ブラケット式手摺

現在はメーカーの既製品が沢山販売されていますが、シンプルなだけに素材にこだわりたい所です。

メーカーの既製品は塩ビ製のもので汚れにくく、抗菌効果等も付加され魅力的ではありますが、住処となる住居ではずっと触れる所になるため、そのような工業製品ではなく自然なものがヒトをやさしく支えてくれる気がします。

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美しく、安全で、コストを抑える手摺のデザイン

手摺は、その空間を彩る重要なデザイン要素ではありますが、まずは安全性が十分確保されているかが重要です。

法令以上に、子どもから老人までバリアフリーに使用されることを想定した安全性を考えてデザインする必要があります。

その上で美しく、構造的にも効率的で、コストを抑えられるデザインが成立出来れば、唯一無二の美しい手摺の完成です!

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この記事を書いた人

・一級建築士
・インテリアプランナー
幼少期から大学までは和歌山の実家で田舎暮らし。
大手ハウスメーカーで累計約40棟の住宅を技術営業として担当。
その後、組織設計事務所に転職し、学校・庁舎・道の駅・公民館・発電所等の主に公共建築物の設計に携わる。
現在は組織設計事務所に所属し、日々建築設計業務に取り組む傍ら、建築系webライターとして建築に関わるマニアックな情報から住宅購入に関わる内容まで幅広く発信している。
和歌山から、大阪、東京と住まいを移し、また和歌山戻り、田舎に自邸を建てる。

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