機能的で美しい建物は、建築家、エンジニア、職人たちの緻密に積み上げられた技術によってつくられ、長い年月を経ても尚美しく佇み、いい雰囲気を醸し出しています。
日々沢山の建物が建設されている現在、すべての建物が建築家たちの緻密に積み上げてつくられたものばかりではなく、経済性などを優先した建物も少なからず建っている現状があります。
建築は工学的観点と芸術的観点の両軸から評価されることが多く、専門家からの言葉は難しいところがありますが、建築家の視点を知ることで素人でも簡単にいい建物を見分けられる方法があります。
いい建物を見分けられるポイント3選
1、コンクリート打放しの割り付けを見る
2、光と風の入り口を見る
3、樋や設備機器などの存在感の有無を見る
1、コンクリート打放しの割り付けを見る
コンクリート打放しの割り付けを見れば、その建物の密度の濃さが見えてきます。
コンクリート打放しにしておけば、勝手にかっこよくなると思ってる設計者が多く存在しますが、コンクリート打放しを本当に美しく表現している設計者は、それ程多く存在しません。
コンクリート打放しを扱う建築家やエンジニアは、コンクリートの物性値を理解し、その場所・その建築に最も適した配合で、コンクリートの表面に表れる型枠材の割り付けにまで目を配って建物全体を調整しながら設計しています。
では、どんな所に建築家やエンジニアが施した設計密度の濃い所が見られるのか。
- コンクリート打放しの整った型枠割り付け
- 階をまたがっても美しい割り付け
- 窓とコンクリート打放しの割り付けが合っているか
- タイルや木材とのモジュールが合っているか
上記4点を見ることで、その建物の設計密度の濃さが分かるようになります。
それではもう少し詳しく見ていきましょう。
コンクリート打放しの整った型枠割り付け
コンクリート打放しをよく見れば、型枠の継ぎ目が縦横に筋として見えてきます。
この縦横に走る細い筋となるラインがコンクリート打放しの割り付けとなり、建物の見え方に大きな影響を与えることになります。
何も考えなければ、この型枠の継ぎ目のラインは経済性と施工性の観点を優先に割り付けが決められることになり、建築家の思想と施工者の思想のズレが生じ、建物に注入される愛情が薄いものとなってしまいます。
なんとなくいい雰囲気だと思うコンクリート打放しを見た時、型枠の割り付けをじっくり見れば、建物全体として整った位置に調整されていることが分かると思います。
階をまたがっても美しい割り付け
施工性の観点では、階をまたぐ場合(1階と2階のあいだなど)一気にコンクリートを打ち上げることはせず、2回以上に分けてコンクリートを打ち上げます。
その分割してコンクリートを打ち上げるために、コンクリートの打設時期が変わり、型枠が切り替わることになるため、どうしても1階と2階の間の割り付けは他のモジュールからは外れた割り付けになることが多くなります。
それらを見越して、型枠の割り付けが美しく連続するよう建物全体を設計時から調整することは可能で、実際の現場でも階を跨いで美しく割り付けられているコンクリート打放しも存在します。
ポイントは階をまたいだ部分の型枠割り付けまで整えられているか否かを見ることです。
窓などの開口部の割り付けと、コンクリート打放しの割り付けは綺麗に揃っているか
コンクリート打放しの壁面には、基本的には窓や換気口などのノイズとなる開口部を開けない方が美しいです。
壁面は美しい壁面のみとし、開口部は開口部のみでまとめることで、汚れの付き方にも統一性や秩序が生まれ、汚れを付け加えてより美しくなる法則が生まれます。
まずは、むやみにコンクリート打放し面に窓や換気口を設けていないか否かを見ます。
やむを得ずコンクリート打放し面に窓や換気口を設ける場合は、コンクリート打放しの割り付けに合わせた位置に配置されているか否かを見ます。開口部を割り付けに合わせた位置に調整出来ているものは、全体的に整えられた美しい建物が多いです。
タイルや木材などの異素材と、コンクリート打放しの割り付けが整合しているか
壁面がコンクリート打放し、床面がタイル、天井が木材など、違う素材がコンクリート打放しと取り合う場合、それぞれ異なる割り付けでぶつかり合うことになります。
上の写真は、コンクリート打放しに使用される型枠の幅と、壁面・天井面に使用される木材の幅が全く同じものを使用して全体を統一しています。
これら違う素材のモジュールを合わせるよう全体を調整されているかを見ます。違う素材のモジュールがぴったり整った空間は、品がよく纏められている建築が多くあります。
2、光や風の入り口を見る
建物にとって、自然の光や風を取り入れるために窓は必要不可欠なものではあります。
ただし、むやみに建物に窓を開けることになれば外観やインテリアの印象に悪影響を与えるだけでなく、建物自体の性能にも影響が及ぶことになります。
光や風を最適に取り込むために、窓をどの方向に対して開くのか、窓の配置や大きさ、形状、開き勝手、ガラスの種類など、窓に対してのアプローチも様々です。
この光や風の取り込み方は最も慎重に検討する一つではありましたが、技術進歩による窓の断熱性や気密性、水密性などの機能面が向上し、簡単に窓を配置出来てしまう時代となってしまいました。
そんな中でも、現代の法令上必要とされる窓の性能を確保し、高性能な窓を感じさせない建築的な工夫も見受けられるようになりました。
法令上の窓の要否
建築基準法では、国民の生命、財産の保護の観点から、採光・換気・排煙・避難のため窓の最低限必要な大きさが定められています。
一方、省エネ法では、経済的環境に応じた燃料資源の有効な利用の確保を目的とし、断熱性の低くなる窓の面積は小さくなるほど有利となるような規定となっています。
建築をデザインする上で、建築基準法、省エネ法などの関係法令により窓の配置や大きさは制限されることになります。
先人の知恵により窓をもっとシンプルにする
窓は自然の光や風を積極的に取り込む機能と、夏場の直射日光を遮り、台風などの外的脅威から守る機能の両方を満たす必要があり、現代の建築ではなかなかシンプルになりません。
それは、窓だけでなく外壁や屋根に関しても同じことが言え、技術が発達することで、それぞれ外壁材や屋根材単体での性能が向上し、建物のデザインが如何様にも出来てしまうことになります。
雨の多い日本では、軒のある建物が多くあり、それは窓や外壁材の防水性が殆ど期待できない時代であったからです。
現代では、屋根材も窓も防水性能の高い商品があり、軒がなくても成立してしまう。
それが、余計に高性能な窓の存在感を高めることに繋がっています。
先人の知恵にならい、建築的に軒をデザインすることで窓周りや外壁はもっとシンプルにすることができます。また、軒をだすことで、影ができ更に窓の存在を感じにくくなります。
建築的な工夫により、光や風を取り入れる窓の存在を感じにくくなっているか否かが、いい建物を見分けるポイントでもあります。
3、樋や設備などの付属物の取り付き方
建物の外観を損なう原因の1つに、人工的な突起物が外壁に取り付くことがあります。
その代表的なものが、樋と換気口などの設備機器です。
なんとなく雰囲気のいい建物だなと思うものは、樋や換気口などの設備機器は外壁に取り付いていない又は上手く建築に紛れさせています。
何も考えずに普通に建てれば、樋や換気口は必ず外壁に取り付くもので、その当たり前のものがない事で、見た目の効果は非常に高いものとなりますが、設計でそこまで配慮して造られる建物は一部に限られているのが原状です。
樋と換気口に焦点をあてて建築を見ると、その建物の設計密度がなんとなく感じられると思います。
機能的で美しい建物を見分けるポイントまとめ
いい雰囲気の建築には、それなりの理由があります。
愛情を注ぐ施主と、それに答える密度の濃い設計、密度の濃い施工がなされた建築はおのずと機能的で美しい建築となります。
それらが分かりやすく表れる所を今回ピックアップいたしました。
・コンクリート打放しの割り付けが整っているか
・光と風の入り口を見る
・樋や設備などの存在を感じさせない工夫がなされているか
もちろん見分けるコツこれだけではありませんが、この3点が顕著に確認できれば、それは間違いなく美しく、愛情が注がれた建物だと考えられます。
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