昨今、特に自然災害が多くなり、ますます建物に対する災害対策が必要とされています。
台風、暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震などなど自然災害はどの地域に住んでいても被害に合う可能性があります。
それら自然災害への対策を建物で完璧にしてしまうと窓のない頑丈な箱を作ることになります。それでは面白くありませんので、美しい建物で豊かな暮らしの中で出来る、自然災害への対策について解説します。
窓周りに出来る台風対策
台風、暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震などの自然災害に対して、建物の最も弱点となるところが窓です。
自然災害時の自宅避難のできる台風、暴風、豪雨時には、その弱点となる窓を守ることが重要となります。
台風時、窓周りの最も危険な部位である窓ガラスの対策
窓周りの対策として、まずは窓ガラスが割れない対策として、下記の4点が有効です。
- 割れにくい強化ガラスとする
- ガラスの外側へ雨戸やシャッターを設置する
- ガラスの外側へネットを張る
- 中庭プランとする
強化ガラスは普通ガラスに比べて3~5倍の強度があります。 お値段はやや高くなりますが、暴風や多少の衝撃程度では割れない安全なガラスです。ただし、強化ガラスは表面からの衝撃には非常に強い性質をもっていますが、横からの力には弱い性質があります。よって、窓の縁をバール等でこじ開けようとすると簡単に割れてしまいますので、防犯性は期待できません。
ガラスの外側へ雨戸やシャッターを設置すると、台風時の窓ガラスの破損防止に有効ではありますが、台風以外の時に外観に及ぼす意匠的な影響が大きいです。うまくデザインに取り込めばいいですが、もちろん費用も高くつきます。
窓ガラスの外側へネットを張る方法については、台風以外の時は外しておけば、普段時の外観には影響はありません。
また、中庭プランの場合は外部からの暴風や飛来物への影響を受けにくい構造となりますので、窓ガラスの外側へ雨戸やシャッターとつける必要がなく、意匠的にも非常に有効な手段です。
建物は台風時も大事ですが、普段の佇まいも大事です。
普段の建物の外観に影響がない対策としては、強化ガラスとすること、ガラスの外側へネットをはること、中庭プランとすることの3点が有効です。
窓ガラスを割れないよう対策しても、思いがけない暴風や飛来物により窓ガラスが破損し怪我をする恐れがあります。
窓ガラスが割れてしまった時の、人の怪我を防ぐ方法してしては、下記の3点が考えられます。
- ガラスが割れた時に飛び散らないように飛散防止フィルムを張る
- 割れた時、粉々となる強化ガラスへ交換する
- カーテン(ロールスクリーンや障子など)をしめる
普通ガラスの場合、割れてしまった場合は鋭利な刃物にようになり、その鋭利な刃物が暴風により飛び散ると非常に危険な状態となります。それらが飛び散らないようにする飛散防止フィルムは非常に有効な手段となります。
普通ガラスは、鋭利な刃物のように割れるのに対し、強化ガラスは粉々に割れる性質があり、怪我がしにくい形状となります。
飛散防止フィルムと強化ガラスは、ガラス破損時の怪我防止に対して非常に有効な手段ではありますが、組み合わせると非常に危険となることもあります。
ガラスの重量は、水の比重の約2.5倍もあり非常に重たいものです。
強化ガラスに飛散防止フィルムを張ると非常に危険になる理由としては、
強化ガラスが割れた時、粉々になる性質によりガラス全面が一気に破損することになり、飛散防止フィルムが張られていると、窓ガラス全面が一体となって倒れてきます。
水の比重2.5倍もある窓ガラスが全面一体となって倒れてきますと大人であっても非常に危険な状態です。
台風対策に有効なガラスの種類
ガラスの種類は、普通ガラス(フロートガラス)、強化ガラス、網入りガラス、型板ガラス、複層ガラス、合わせガラス、Low-Eガラスと沢山あります。
それぞれ、断熱性能、耐火性能、耐風圧性能などの必要とされる性能に合わせてガラスの種類を選定していきます。
昨今、省エネ性能への関心が高まっていることもあり、複層ガラス、Low-Eガラスの断熱性の向上を目的としたガラスが主流となってきています。
複層ガラスやLow-eガラスについては、断熱性を確保するために、2枚のガラスを空気層を挟んで構成されるもので、上記で挙げた普通ガラス(フロートガラス)、強化ガラス、網入りガラス、型板ガラスのいずれかの組み合わせとなります。
一般的には、経済性を考慮し普通ガラスを2枚空気層を挟んで複層ガラスとしますが、台風などの外部からの耐風圧の確保や飛来物への対応を考えると、強化ガラスや網入りガラスが有効となります。
複層ガラスやLow-Eガラスの場合、室外側と室内側の2枚のガラスで構成されていますので、外側のガラスを強化ガラス又は網入りガラスにすることが有効となります。
台風時の外部からの飛来物に対する対策
ガラスを強化ガラスや網入りガラスに変えることは有効な手段ではありますが、ガラスの取り換えは専門業者での改修工事が必要となってきます。
そこで、普通ガラスのままで外部からの飛来物の対策について有効な手段としては、ガラスの外側へネットを張ることです。
イメージは、夏場の日よけシェードです。
この日よけシェードをそのまま使うと暴風で飛んでいってしまうので、シェードは片付けて、そのかわりに風を通すネットを張れば、台風時の飛来物の対策になります。
普段は美しく、台風時はしっかり守り、メンテナンスも楽
台風や暴風、豪雨の時には、家の中にいる人命に影響のないよう、窓周りを強化する必要があります。
一方、窓周りは住まいのなかでも、普段の暮らしを豊かにする役割を担っています。
窓の役割
窓は、普段の暮らしを豊かにするだけでなく、人が健康に過ごすための重要な役割を担っています。
建築基準法第一条に、本法律の目的の記載があり
「国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする」とあります。
窓も例外ではなく、建築基準法で定められた基準に基づいて設計されています。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000201
建築基準法で定められている窓の求められる性能としては、下記の3点です。
- 自然の光を人の居る室内へ取り入れる採光の基準
- 自然の空気を人の居る室内へ取り入れる換気の基準
- 火災時に煙を室外へ排出するための窓の大きさの基準
- 火災時に消防隊員が室内へ救助活動するために侵入するための窓の大きさの基準
住宅に限らず、建築物はこれら建築基準法で定められる窓の基準に適合するよう設計されています。
建築基準法で規定される健康と安全性を確保した上で、さらにその建物が建つ立地条件、季節や方角、地域性などを加味しながら、暮らしが豊かになる窓周りのデザインが施されていますので、それらの暮らしを豊かにする窓を完全に閉ざしてしまうことはできません。
台風時に緩やかに家を閉じ、自然と共存する
自然はさまざまな猛威を人に与えてきますが、完全に防ぐことはできません。
また、自然は猛威だけでなく、光・風・水・風景・香りなど沢山の恵みを与えてくれます。
その時々に応じて適度に閉じる建物が、うまく自然と共存していくものだと思います。
一昔前であれば、雨戸や格子戸、深い軒、生垣などの植栽があり、それが日本の風景がつくっていました。
自然の光・風・香りを室内へ届け、適度に閉じることで、自然とうまく共存し、非常に豊かな風景を作っていました。
ただし、すべて木で作られてきましたので、火災に弱い構造が、その日本の風景を変えることになります。
耐火性や防犯性、プライバシーが重視されるようになり、日本の住宅の風景はかわりつつあります。
雨戸がなくなり、シャッターとなり
格子がアルミとなり、
軒がなくなり
植栽がなくなった風景となっています。
やはり、少し味気ない感じがあります。
昔に戻り、格子戸や深い軒をつくる必要はありませんが、現在に求められる耐火性や防犯性、プライバシーは確保しつつ、台風時だけは、うまく閉じる工夫が必要です。
それら現在に求められる性能を満たした上で、自然と共存するため、出来る限り空を感じられる窓のとりかたをデザインし、台風時は緩やかに閉じるプランニングが有効となります。
台風が過ぎ去った後は、簡単に外せてメンテナンスも容易
先に紹介した、窓の外にネットを張る方法は、既存の建物にも簡単に取り付けることができ、台風対策にも十分有効な方法です。
また、台風が過ぎ去ったあとも、簡単に外せてメンテナンスもほとんど不要です。
高価なシャッターを取り付けるのであれば、少し手間ですが、その時だけネットを張るほうがコストパフォーマンスは最大化されます。
地震時にも強い、窓周りの工夫
窓周りは、台風だけでなく地震にも強くなければなりません。
昔の木でつくられた住宅は、ガラスを使わずに障子などの紙と木で作られていましたので、窓周りでガラスが割れて怪我するようなことはありませんでしたが、現在の建物は、窓周りは大部分がガラスで作られていますので、ガラスが割れて飛び散らない工夫が必要です。
地震時は、ガラスのクリアランスが重要
一昔前のガラスは、漆喰のようなパテで固定されていましたので、地震時に割れやすい構造となっていました。
今では、レトロな雰囲気でいい感じなのですが、地震時にはガラスが鉄の枠に固定され、揺れに追従せず割れてしまいます。
現在のガラスの固定は、ゴム又はシーリングなどの揺れに追従する緩衝材で固定されていますので、地震時の揺れに強い構造となっています。
古い建物で、上記写真のような白いパテで固定されていれば、黒いゴム又はシーリングに交換することをお勧めします。
はめ殺し窓より、可動窓が有効
まどには、はめ殺し窓(=FIX窓)、引き違い窓、上げ下げ窓、回転窓、折れ戸など沢山種類がありますが、その中でもはめ殺し窓(=FIX窓)だけは、窓が可動しない構造となっています。
窓が可動しないということは、ガラスとその他の部材の隙間(クリアランス)が少ないことになります。引き違い窓などの可動する窓は、可動するための隙間(クリアランス)が少なからず必ず確保されていますので、地震時にそのクリアランスが有効に働きます。
実際に、いままでの阪神大震災、東日本大震災、熊本地震でも可動する窓ガラスは殆どわれた実績がありません。
国家の重要施設を設計するときに基準となる文献「官庁施設の総合耐震・対津波計画基準」でも、はめ殺し窓は何らかの処置を施すよう記載があります。
はめ殺し窓を地震時も安全にする術
それでは、はめ殺し窓は使わないほうが良いかと言えばそうではありません。
はめ殺し窓は、もっともシンプルな窓形状で、意匠上は非常に美しい窓です。
はめ殺し窓を地震時も安全にする術としては、ガラスをはめ込む溝に十分なクリアランスを確保した計画にすることと、万が一割れた時にもガラスが飛び散らない飛散防止フィルムをはることが有効な手段となります。
また、はめ殺し窓の下には人が近づかない計画(例えば、庇や植栽帯を計画)することで安全性は高まります。
台風や地震などの自然災害に強く、自然と共存する美しい建物
自然災害に対して、すべて完璧に防ごうとすると窓のないシェルターになります。
窓のないシェルターは、安全だと思いますが面白くないし、家の中では自然を感じられないので人らしくない。
自然を受けいれて、自然と共存して過ごす方がずっと豊かだと思います。
完全に自然に閉じるのではなく、自然を感じながら緩やかに閉じる方法が今の技術、経済性の中で最も効率のよい過ごし方で、自然を堪能し、人らしく生きる術につながるのではないでしょうか。
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