美しい建物に「透ける」と「映す」が使われる理由

美しいと感じられる建物には共通して「透ける」技術と「映す」技術が使われていることが多くあります。

最近の新しい建物では特に、ガラス、加工金属などにより「透ける」デザイン「映す」デザインが施されていますが、日本の古い建築にはガラスなどを使わずして木や石などの自然の材料だけで透ける・映す技術・デザインを見ることができます。

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建築に透ける・映す技術が使われる理由は、“自然とつながりたい”というヒトの本能的欲求から導かれているからではないかと考えます。

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目次

自然材料だけで「透ける」と「映す」を実現してきた日本のデザイン

日本の古くからある建築には、自然素材を使った「透ける」と「映す」技術が使われています。

自然素材でつくる「透ける」日本のデザイン

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ガラスが使われていない時代は、木格子や、障子が使われ庇の出寸法によって外部の光を調整しながら内部に取り入れていました。

木格子や障子は、どちらも木と紙の自然素材で作られ、直接的な光ではなく、木格子や障子を透して柔らかな光を室内に取り入れていました。

障子に使われる和紙は光を均一に拡散する性質があり柔らかく優しい光が室内に入り込みます。

明るさを感じる強さはヒトによって異なりますが、強い光のコントラストは敏感に反応し不自然さを感じます。

日本の障子や格子、庇の出によって、光はグラデーション的に緩やかにコントラストを付け、森の中にいるような豊かな気持ちになります。

この均一ではない緩いコントラストの付いた自然の光を室内に再現できる仕組みが日本の木格子・障子・庇の透ける技術でした。

四季を「映す」日本のデザイン

日本の建築には「映す」デザインで一躍有名になった建物があります。

それは京都の「瑠璃光院」です。

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外の自然を室内の床面に映し出し、外と中で一体的に自然を感じられる空間として、インスタ、ツイッターで一気に拡散され日本の豊かな建築・風景が世界中で認知されるようになりました。

日本は昔から、外部と内部の繋がりに豊かさを感じられる建築を造ってきました。

外部の環境を室内に取り込むための窓位置や、庇の出寸法、外構配置などが決められています。

また、日本の四季は、季節によって光に色を持たせてくれます。

春には植栽の新芽を透過した淡い薄緑の光があり、夏は濃い緑の反射光、秋には赤や黄色の紅葉色、冬は雪の白銀の光を感じることができます。

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この季節の移ろい変わりに彩られる光を、室内の床や天井に映し、室内でも四季が感じられる豊かな環境を実現しています。

近代建築での「透ける」と「映す」デザイン

日本らしい「透ける」「映す」デザインは、近代建築の中でも新しい技術を使い様々な建物に反映されています。

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ガラスだけではない新しい技術をつかった透けるデザイン

近代建築での透けるデザインは、ガラス素材が代表されますが技術が進歩し様々な素材を使って、透けるデザインが使われるようになりました。

例えば、レンガ。

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レンガは密に積み上げることで、強固な構造として壁面が構成されるものですが、内部に鉄骨支柱を入れることで、隙間を開けて積み上げることで、地震時の揺れに追従するような構造として成り立たせることも可能となりました。

レンガは土を焼いて造られるもので、木と同様に自然素材です。レンガを透かして積み上げることで、木の縦格子のような自然素材を透した光・風を室内に取り入れることができます。

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レンガは木よりも耐久性が高いことから、昨今はビル建築でも採用される事例も見かけられます。

また、金属を加工し透けるデザインを実現する例も見かけられるようになりました。

金属に様々な穴をAI技術を使って開けることで、ほどよく視線をカットし内部に光と風を取り入れるデザインや、内部に木漏れ日のような光を取り入れるようなデザインなど、さまざまなシカケをつくることが可能となっています。

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新しい技術を使った映すデザイン

日本の映すデザインは、外部の環境を内部に映し出す(四季の光を内部に取り込む)ことが主目的ではありましたが、最近のビル建築では、外部の環境を外部に向けて映し出すことや、内部のヒトの賑わいをそのまま内部に映し出すなど、さまざまな新しい映すデザインを見ることができます。

美術館などでは、建物周囲に水盤を設け建物と建物周辺を映し出すことで、地域の特徴を表現するパブリックな建築があります。

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この建築は、富士山の麓にある湖から見える逆さ富士を表現したもので圧倒的なものを感じます。建築もコンピューターで作られた最新の技術が使用され、逆さ富士が実現できるかどうかもシミュレーションされて造られています。

新しい技術はもちろん、水盤により自然のゆらぎを利用した映すデザインにヒトは圧倒されるものだと感じます。

また、金属加工の技術も発達しアルミの表面仕上げを平滑にすることで、反射率の高い仕上がりになり、ステンレスのような表情をつくることが可能となりました。

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アルミの軽やかさがありながら、ステンレスのような鈍く反射する仕上がりは、建物の外壁や、天井など様々な所で使用できることになり、周囲の環境を映し出すことが可能となります。これらも均一な反射ではなく、自然のゆらぎをもたせることでヒトの心を動かすデザインを造り出しています。

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美しいと感じる建物は自然のゆらぎを「透ける」・「映す」ことで豊かな建築空間を造り出している

日本の古くからある外部の自然環境を優しく内部に繫げる「透ける・映す」デザインと、最新の周辺環境を関係性を「透ける・映す」デザインで表現する様子は全く異なるものですが、美しいと感じる建物の共通的としては自然のゆらぎを取り入れているところにあります。

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古くからある柱離宮などの建物は、静かに外部の光を品よく取り入れています

何百年も前の建物であるにもかかわらず、未だに現在のヒトの心を動かすチカラを持っています

新しい最新の技術を詰め込んだ建物も、自然のゆらぎを取り入れた方法でヒトの心を動かすことに繋がっています。

自然は、均一なリズムではなく不規則なリズムでゆらぎがあり、なぜかその不規則なリズムは、ヒトは心地よく感じます。自然のゆらぎを建築に透過し映すことで豊かな建築空間を造り出すことに繋がっています。

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この記事を書いた人

・一級建築士
・インテリアプランナー
幼少期から大学までは和歌山の実家で田舎暮らし。
大手ハウスメーカーで累計約40棟の住宅を技術営業として担当。
その後、組織設計事務所に転職し、学校・庁舎・道の駅・公民館・発電所等の主に公共建築物の設計に携わる。
現在は組織設計事務所に所属し、日々建築設計業務に取り組む傍ら、建築系webライターとして建築に関わるマニアックな情報から住宅購入に関わる内容まで幅広く発信している。
和歌山から、大阪、東京と住まいを移し、また和歌山戻り、田舎に自邸を建てる。

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