災害に備えた耐震リノベーション、リフォームのデザインと補強にかかる費用について建築士目線で解説!

耐震リノベーション

昨今災害に伴う住宅の被害があとを経ちません。

日本の災害では、地震、津波、土砂、台風、河川氾濫、豪雨等があり、内陸海際関係なく、どこに住んでいても災害から逃れることは出来ません。

新築の場合は、国や地方公共団体が作成しているハザードマップを確認すれば、ある程度回避は出来ますが、既に建っている建物(既存建物)については逃れようがありませんので、出来る対策を施すのが重要となってきます。

今回は災害の中でも、最も可能性が高い地震に対しての耐震リノベーションやリフォームについて解説していきます。

目次

災害に備えた耐震リノベーション・リフォームのポイント

災害に備えた耐震リノベーションやリフォームについては、以下の4つのポイントによって、費用・デザインが大きく変わってきます。

1、建物の状態

2、どのグレードまで耐震性を向上させるか

3、耐震補強に伴うその他の改修要否

4、リノベーションのタイミング

1、既存建物の状態

リノベーションを考えている建物の状態が悪ければ、耐震補強を施しても、その後すぐに雨漏りで補強部分が腐食することになれば、全く意味のない改修となってしまいます。

既存建物が健全であるかどうかの把握がまずは第です。

具体的には、建物を雨や風から守る屋根や外壁の状態が健全か否か。

また、床下や天井裏の見えない所が湿気等で腐食していないかどうか。

屋根・外壁・床下・天井裏に欠陥がなく健全な状態であれば、比較的安価で、耐震補強が活きてくるリノベーションが可能となります。

屋根や外壁等で、欠陥が見つかれば、まずはその部分を改修して建物として健全な状態を作り上げる必要があるため、耐震補強工事の前に、建物健全化改修費用が必要となり、リノベーション費用が膨れ上がることになります。

2、どのグレードまで耐震性を向上させるか

耐震補強工事は、内容によって費用が大きく異なりますが、数百万円~数千万円かかる工事があり、それは高グレードな補強、又は耐震補強に伴う、それ以外の改修が多くなっている場合があります。

もちろん、多額の費用をかけ耐震グレードを高くするに越したことはありませんが、どんなに高グレードな補強をしても、将来それを超える地震がくる可能性もありますので、完璧はありえません。

耐震補強の目的は、「地震の揺れを軽減し、建物の損傷を出来る限り少なくし、人命を守る」ですので、予算に合わせて、最低限の耐震性向上を狙う方法もあります。

極端な例では、2階部分はあきらめる。1階部分が倒壊せず命を守れる構造とする考え方もあります。

子供が家を出ていき夫婦2人の生活で、2階部分は殆ど使わないとなれば、そのような極端な改修も現実味があります。

3、耐震補強に伴うその他の改修の要否

耐震補強する際に、補強箇所や補強工法によっては屋根や外壁を改修しなければならない場合があります。

屋根や外壁を改修する場合、部分的な改修も可能ですが、「防水上の観点」と、「将来の改修タイミングの観点」より、全面改修するほうが望ましい為、改修費用が大きく膨らむ場合があります。

屋根や外壁の部分改修より、全面改修の方がよいと考える「防水上の観点」

雨水は上部から下部へ重力に従い流れていきますが、表面張力により水平部分にも伝っていくことがあります。

部分的に改修しますと、元々一枚屋根だったところが、既存の屋根と新しい屋根の取り合う所が必ずでてきます。

その取り合う所が、水の伝う道となりうる可能性が高くなるため、全面改修が望ましいと判断する可能性が高くなります。

屋根や外壁の部分改修より、全面改修の方がよいと考える「将来の改修のタイミングの観点」

屋根材や壁材については、一般的には定期的な塗替えや張替等のメンテナンスが必要となります。
※RC造で外壁に石を張っている建物等は除きます。

部分的に屋根材や壁材を改修することになると、将来のメンテナンス時期が、その部分だけが異なることになります。

その部分だけを時期をずらしてメンテナンスすることは現実的ではない為、全面メンテナンスすることになり改修時期ではない部分も改修することなります。

であれば、この耐震改修の機会に全面改修しておいたほうが良いとなります。

耐震改修工事が、屋根や外壁だけでなく、お風呂やキッチン等にも影響する場合は更に改修費用が膨らんできますので、耐震補強に伴う、その他の改修がどこまで影響するかを事前に把握することが重要となります。

4、リノベーションのタイミングに合わせる

耐震改修に伴うその他の改修が発生する可能性が非常に高いのが現状です。

リノベーションのタイミングに耐震補強を組み込むことで費用対効果が高くなりますので、それらのタイミングを見計らうことも重要となります。

リノベーションの流れについては、別で紹介してますのでそちらも参考にしてください。

耐震補強にかかる費用

日本の住宅で最も多く建てられているのは木造軸組み工法です。

その木造軸組み工法の耐震補強の考え方は、柱と柱の間に筋交いを入れた「耐震壁」をバランスよく配置することで地震の揺れを軽減するものです。

耐震壁をどこに、どの程度入れるかによって、耐震補強にかかる費用が見えてきます。

耐震補強をどこに、どの程度入れるのか

耐震の簡単な仕組みは、既存の建物に筋交いの入った耐震壁がどの程度配置されていて、不足分はどこかを調査し、その不足を補うことになります。

どこまでの不足分を補うかの基準は、国土交通省HPで定められていますが、法律的なものではなく、あくまでも望ましい基準であり、明確にどこまで補強しなさいとまで記されていません。

木造軸組み工法の補強方法、費用

木造軸組み工法の住宅は、3尺=90cmごとに間柱が入っています。その90cmの間柱の間に筋交いを入れることで耐震壁とします。

その90cmの耐震壁を設置する工事費は1カ所あたり凡そ10万円程度です。

既存建物耐震診断を行い、その耐震壁の不足部分が5カ所であれば約50万円です。

不足部分が10カ所あれば約100万円です。

耐震補強に伴う、その他の費用と、どこまでするかの考え方

上記の費用は単純に耐震補強のみの費用ですので、実際は耐震壁を取り付ける箇所に関係する内装材や、外装材、お風呂やキッチン等の設備類を撤去しないと耐震壁を取付出来ない場合が多々あります。

実は、それらの耐震壁を取り付ける為に、関係する内外装や設備の改修費の方が高くつく場合が多いのが現状で、結果耐震補強箇所は2カ所であっても、内外装や設備の改修が必要となり、何百万円も必要となることがあります。

出来れば100点満点の耐震補強が望ましい所ですが、割り切る考え方もあります。

例えばこの柱部分の補強をしようとすると、お風呂とその関係する内装の改修が発生するので、耐震補強は10万円で済むのに、それ以外で数百万円必要となる場合もあります。

その場合は、この柱部分はあきらめて、もっと他の関連する補修が少ない箇所で、建物耐震性を向上させる方法もあります。

最初から100点満点を目指すのではなく、今の予算の中で80点でもよいので耐震性を向上させておいて、残りの20点は、そのお風呂の改修時期が来た時に合わせてする方法もあります。

耐震補強の具体的な方法

木造軸組み工法の場合、大きくは下記の3つを重点的に補強し、地震の揺れを軽減し建物の崩壊や損傷を少なくします。

1、耐震壁の量

柱と柱の間に筋交いが入った耐震壁がどの程度入っているかにより評価します。

2、耐震壁のバランス

耐震壁が平面上、偏った配置になっていないかを評価します。
耐震壁の量が十分であっても、平面上偏った配置であれば、建物の揺れは増幅しますので、バランスよく配置することが重要です。

3、構造部分の接合部

大きな地震が来た時に、柱や梁、筋交いの接合部が地震に耐えようと踏ん張ることになります。

その接合部が弱ければ、筋交い等の役割はなくなりますので、接合部の強度も重要となります。

上記の3つを満足するよう、既存建物の耐震診断を行い、不足部分はどこかを見極め、どの部分をどこまで補強するかを予算の範囲内で行うことが重要です。

要注意!業者の提案

ここで、よく聞くリフォーム業者の提案で注意が必要なものがありますので、いくつか紹介します。

まずは「屋根裏や床下に耐震補強金物を取り付けます」と提案してくる業者です。建物の耐震壁の量やバランスも調査せずに、屋根裏、床下の耐震補強金物だけをつけても建物の耐震性の向上は微々たるものです。

それに何十万円、何百万円も請求されるものを見かけますが、それだけの金額があれば、既存の建物を耐震診断し、耐震壁を一つでも追加する方が耐震性の向上に大きなメリットがあります。

また、「ホールダウン金物で建物を強固にします」と提案してくる業者がいます。確かにホールダウン金物は、直下型の地震に対して土台から柱が抜けないようにする有効な金物ですが、これも上記と同様に、耐震壁の量やバランスが先で、ホールダウン金物はそれの次に必要なものです。既存建物の調査をせずに、ホールダウン金物だけの設置を提案してくる業者は注意が必要です。

耐震補強に向いている建物

耐震補強に向いている建物については、建物の築年数が大きく影響します。

まずは法律的に、1981年に耐震性に関する基準が大きく変わりました。それ以前に建てられている建物は、現在の耐震基準に合致しない建物となっており、震度6強の地震で崩壊や大きな損傷を受ける可能性があります。

1981年以前の建物は、2021年の現在ですと築年数40年となります。
築年数40年以上の建物は、耐震改修に大きなメスを入れなければならない可能性が高く、改修費用は高額なものになる可能性が高くなります。

また、耐震補強では、内装や設備で隠れた構造部分を改修する必要がありますので、耐震補強以外で改修が必要となる部位が多く発生します。費用的には、耐震補強工事費よりも、それら関係する内装や外装、住設備の改修費の方が高額となります。

特に、住設備の改修費が高額となりますが、一般的には設備の更新時期は15年サイクルと言われています。

つまり、耐震補強に向いている建物としては、築年数は40年より新しく、設備の更新時期に合わせて耐震改修工事をするのが最も費用対効果が高い改修となります。

もちろん、築年数が40年以上経っている建物であっても、耐震補強に向いている建物も存在しますので、まずは専門家の耐震診断を受けてどの程度の補強が必要かを把握することが重要です。

耐震リノベーション、実例紹介

実例1、戸建住宅 約30坪 築16年

耐震リノベーションの内容としては、耐震壁の設置、耐震金物の設置を行っています。

その他、キッチン、お風呂、洗面の水周りの改修と耐震改修に関連する内装改修を行っています。それらすべてで約900万円です。

水周りの更新時期と合わせた改修で、見た目は殆ど新築で耐震性の向上が出来、費用対効果の高い改修となっています。

戸建住宅 約30坪 築53年

耐震リノベーションの内容としては、耐震壁の設置、耐震金物の設置、屋根の軽量化を行っています。

その他、バリアフリー改修、内装改修、キッチン、お風呂、トイレもすべて交換し、断熱改修、外壁メンテナンスを行い、すべてで約2500万円です。築年数が53年と古い建物を新築同様に蘇らせています。

まとめ

地震に備えてリノベーションすることは非常に大切なことですが、耐震補強に関しては専門性が高く、業者の言いなりとなることもあります。

最初から100点満点の耐震性を目指す必要がないこと、また、既存の建物の状況に応じてベストな方法は、今全て対応するのではない可能性があります。

それらを丁寧に提案してくれる専門業者、建築士との出会いが大切です。

耐震リノベーション

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この記事を書いた人

・一級建築士
・インテリアプランナー
幼少期から大学までは和歌山の実家で田舎暮らし。
大手ハウスメーカーで累計約40棟の住宅を技術営業として担当。
その後、組織設計事務所に転職し、学校・庁舎・道の駅・公民館・発電所等の主に公共建築物の設計に携わる。
現在は組織設計事務所に所属し、日々建築設計業務に取り組む傍ら、建築系webライターとして建築に関わるマニアックな情報から住宅購入に関わる内容まで幅広く発信している。
和歌山から、大阪、東京と住まいを移し、また和歌山戻り、田舎に自邸を建てる。

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