床材は、その空間全体を美しく魅せるための重要な要素の1つです。
空間は大きく分けると床・壁・天井の3つの面で構成されていますが、床はもっとも人が直接触れる部分で、直観的に空間の雰囲気として認識されます。
例えば、木であれば温かみや優しさが感じられることや、タイルや石などであれば安定感や堅牢さが感じられるように、足に伝わる感触で空間を認識されます。
また、見た目のデザインだけでなく、耐久性や防滑性、防水性、触り心地などさまざまな機能性に加えコストも考慮したうえで選択する必要があります。
空間を美しく彩る床材の種類
床材には、自然素材系では木材、タイル、石、コルク、畳などがあり、人工系では塩ビタイルやシート、カーペット、コンクリートなど、さまざまな種類があります。
床材の選び方としては、何を使わなければならないかの決まり事は特になく、それぞれの材料の特性を知り、自分の好みにあった床材を選択することになります。
床に使用する木材の特徴
自然素材系の床材の代表格である木材。
木材は樹種や色味など様々で、樹種によっても特徴は異なります。
日本で最も使用されているのは杉や檜の針葉樹です。
杉や檜の日本の木材を使った場合の特徴は、温かみがあり、落ち着いた雰囲気が感じられることです。杉や檜は比較的柔らかく裸足での生活の日本には馴染みのある床材です。
外国産のオークやチークなどの比較的比重の重い床材を使うことで、重厚な雰囲気をつくることも可能です。比重の重い材は耐久性や耐水性にも優れており、土足での利用も可能となります。
国産材、外国産材どちらにしても木材は経年によって汚れや傷がつき、紫外線や湿気などにより劣化していく材でもありメンテナンスが必要となります。
メンテナンスが必要となりますが、この経年変化を楽しめるのも自然素材の良さでもあります。
床に使用するタイルの特徴
タイルは土を焼き上げて造られるもので、土に含まれる成分や焼き加減などによって豊かな表情が生まれます。
また、焼き物であるため劣化することはありませんが、経年により汚れを付け加え重ねることでより味わい深さが出てくる良さがあります。
土を高温で焼き上げて造られることから、耐久性が高く、水にも強い性質から、キッチンやバスルームなどの水まわりに使用されることが多くあります。
ただし、比較的コストが高いことがデメリットとしてあげられます。
床に使用する石の特徴
石はタイルと同様に耐久性が高く、水や汚れにも強い特徴があります。石材の種類によってデザインのバリエーションも豊富で、洋風なデザインから和風なデザインまで幅広く使用することが可能です。
石材はタイルと同様に比較的高価な材の1つです。
床に使用するコルクの特徴
コルクは木材(コルク樫)の樹皮を加工したもので、弾力性・断熱性・防水性・防音性・調湿性などの機能を有した材です。
断熱性が高いことで裸足で生活する日本にも馴染みのある床材でもあり、弾力性があることで、子どもや老人にも優しい材でもあります。
タイルや石に比べて安価ではありますが、比較的高価な材の1つでもあります。
床に使用する畳の特徴
最近ではかなり少なくなってきた畳ですが、自然素材を使った床材として日本では長く愛されてきました。
畳は天然のイグサを使用して造られてきましたが、経年劣化によるメンテナンスが必要なことから、最近では樹脂でつくられたメンテナンスフリーの畳が主流となりつつあります。
じかに床に座ったり、寝そべったりする場合に適した床材です。
最近はさまざまな種類・デザインのものがあり、和の空間だけでなく洋の空間にも自然に馴染むデザインも可能です。
床に使用する塩ビタイルやシートの特徴
塩ビタイルや塩ビシートの床材については、ビル建築では最も多く使われている床材です。住宅では、キッチンやトイレ、洗面などの水周りで使われることがあります。
ビニルで出来ているため、耐久性や耐水性があることが特徴で、色や模様など非常にバリエーション豊富な床材で、各メーカーが大量に生産し流通していることから、比較的安価であることが特徴です。
床に使用するカーペットの特徴
カーペットは色や柄が豊富で、空間を暖かみのある印象にすることができます。またノイズを吸収する音響効果も期待できます。ただし、汚れが付きやすく、定期的なクリーニングが必要です。
床に使用するコンクリートの特徴
コンクリートの特徴は耐久性・耐水性が高く、見た目の印象もモダンであることから、最近の住宅でも採用される場面が増えてきました。
また、木造であっても1階部分であれば基礎コンクリートをそのまま床材と兼ねて計画することで、比較的安価に耐久性高い床材を実現することが可能です。
ただし、コンクリートは埃が付きやすく、ひび割れがつきものです。これらを理解して採用を考える必要があります。
床材の色の使い方による空間への影響
床材の色は、空間の雰囲気や印象を大きく左右します。 床材の色が空間に与える影響については、明るい(ライトカラー)か暗い(ダークカラー)かによって目指す雰囲気が変わってきます。
床材をライトカラーにした場合の空間への影響
明るい色の床材は、空間を明るく開放的に見せる効果があります。また、清潔感や爽やかさを感じさせるため、清潔感が重要な場所や、リラックスできる空間に向いています。
また、床が明るいことで太陽の光や照明の反射率も高まり、より室内が明るく感じられるため、壁や天井の色味をシックに纏めても暗くなりすぎることがありません。
明るい色目の床材としては、木材では杉や檜などの針葉樹が明るい分類になります。
また、コンクリートの床材についても、比較的あかるいグレーの部類で、タイルや石材も白いものを選ぶと空間は明るくなります。
床材をダークカラーにした場合の空間への影響
暗い色の床材は、空間を引き締め、重厚感や高級感を演出することができます。
ただし、床を暗くすることで、埃や傷が目立ちやすくなることもあります。
床が暗い場合、空間が引き締められるため狭く感じることもありますが、空間が落ち着き安定感や安心感につながり、大人の落ち着いた雰囲気にしたい場合に効果があります。
暗い色目の床材としては、木材ではウォールナットやチークなどの比重の重いものや、カーペットやタイルでは黒系やのものがあり、それらをを選ぶと空間は落ち着いた雰囲気になります。
色味を組み合わせることの演出
ライトカラーの床材やダークカラーの床材を組み合わせることで得られる効果もあります。
たとえば、玄関部分はダークカラーで色味を暗く抑えて、リビングに入るところでライトカラーの床材に切り替えることで一気に開放感が高めるような演出をすることも可能です。
また、同じ空間でも一段床レベルを変えてダークカラー床材により特別感のある雰囲気を演出することもできます。
あまり、ころころ床材の色味がかわると統一感がなくなりますが、特別感を与えたい時に有効な手段でもあります。
床材に必要とされる機能性
床材は空間を彩る重要なデザイン要素の1つではありますが、耐久性や防水性、防滑性など床としての機能性と、衛生的な清潔さ、経済性が重要となります。
床材に必要とされる耐久性・耐水性などの機能性
床材は、その場所の使用目的に応じて選択する必要があります。
例えば、商業施設の場合は、不特定多数の人の使用が想定され、高い耐久性を持つ床材が必要です。商業施設の場合、事業性も重要であるため、耐久性だけでなく、安価で汚れにくく意匠性にも優れた床材が必要とされます。耐久性・経済性・意匠性に優れた材として、塩ビ系タイルや塩ビ系シートが採用されることが多くあります。
ただし、高級感や重厚感を付加したいようなシチュエーションでは、石やタイルを用いてグレード感を向上させる場合もあります。
商業施設については、コンクリートで構造的な床が造られることが多くありますので、経済性と耐久性と意匠性を兼ね備えたコンクリートで仕上げられる場合もあります。
一方、個人住宅の場合は、耐久性や耐水性のほかに、触り心地や見た目の美しさを重視することができます。
床材に必要とされる清潔さ
衛生面で床材を選択される場合もあります。精密機械を扱うようなクリーンルームや、食品をつくる工場など、床材に清潔さが求められます。
それら施設の床材では、防塵塗装や樹脂系塗床材が採用される場合が多くありますが、個人住宅ではあまり見ることがありません。
清掃のし易さでいえば、塩ビ系のタイルや塩ビシートが平滑で水気にも強いため適していると考えられます。
床材に必要とされる経済性
建物の予算に合わせて、適切な床材を選択する必要がありますが、床材を何を選択するかでコストは大きく変わってきます。
例えば、ファミリータイプの住宅規模で考えると、床面積は100㎡前後で、塩ビタイルなどの比較的安価な1㎡あたりの床材単価が1,000円のものであれば、全体で10万円です。石材などの高価な1㎡あたり50,000円するようなものを選択すると全体で500万円となります。
このように、床材がかわるだけで何十倍もコストが変わることがあります。
ただし、安価な床材を選択した場合、耐久性やメンテナンスに費用がかかり、60年のライフサイクルコストを考えると、あまり変わらなかったと言う場合もあります。
床材の機能性・意匠性・経済性比較表
耐久性 | 耐水性 | 触り心地 | 清潔性 | 静寂性 | 意匠性 | 経済性 | 適した使用箇所 | |
木材 | △ | △ | ◎ | 〇 | 〇 | ◎ | 〇 | リビングなど |
タイル | ◎ | ◎ | △ | △ | △ | ◎ | ▲ | 玄関・水周りなど |
石 | ◎ | ◎ | △ | △ | △ | ◎ | ▲ | 玄関・水周りなど |
コルク | △ | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | △ | リビング・廊下など |
畳 | △ | △ | 〇 | △ | 〇 | 〇 | 〇 | 和室など |
塩ビタイル | 〇 | 〇 | △ | 〇 | △ | △ | ◎ | 水周りなど |
塩ビシート | 〇 | 〇 | △ | 〇 | △ | △ | ◎ | 水周りなど |
カーペット | △ | △ | ◎ | △ | ◎ | 〇 | 〇 | リビングなど |
コンクリート | ◎ | ◎ | △ | △ | △ | 〇 | 〇 | 玄関など |
コストをかけずに空間が美しくなる床材の選び方
沢山ある床材のなかで、コストをかければ耐久性が高く、高級感の感じられる空間とすることが可能ですが、出来る限りコストをかけず美しい空間にすることも可能です。
1階の床であれば、基礎のためにコンクリートを使用しますので、そのままコンクリートを床材として兼ねて計画することで耐久性も高く、見た目もモダンな空間とすることが可能です。
自然素材の木材を使用しメンテナンスを施しながら経年変化を楽しむことができるのも住宅建築ならではよいところですが、水を扱う部分には、耐水性が高く比較的コストも安く済む塩ビ系シートなどを組み合わせることで、全体的なコストも抑えつつ美しい空間を実現することが可能となります。
コメント