マンションや、古民家リノベーションなど異彩を放って味わい深い雰囲気を醸し出しているものがあります。
古いものと新しいものが美しく対比されたインテリアには何か不思議な魅力を感じます。
それでもやはり新築を選ばれる人が圧倒的に多く、リノベーションを選択するのは一部の人に限られています。
心配症が多い日本では、中古の建物を改善しても、またどこか悪くなるのではと思う心理的なところから、新品でつくられ保証も充実している新築に安心感をもってしまうところがリノベーションが流行らないとこに繋がっているのかもしれません。
既存躯体の荒々しい表情や、何十年と使われてきた建材の古びた感じが新しいものと組み合わされなんとも言えない雰囲気がつくれるのはリノベーションならではの魅力でもあります。
リノベーションはコスト的なメリットも大きいため、古い建物の特性を知りリスクを軽減することで、次の住居の選択肢が広がることに繋がるかもしれません。
リノベーションのリスクと古い建物の特性
古い建物をリノベーションする場合、最も重要なのはその建物の特性を十分理解することです。
リノベーションの最大のリスクは、古い建物の構造体が健全ではなかった場合で、見た目の仕上げ材を改善しても、その後雨漏りが発生したり、床が傾いたりと建物の構造体にかかる補修が必要となることです。
ヒトの体と同じで、見た目だけ化粧して美しくしていても内臓や骨がしっかりしていなければ、すぐに病気になってしまいます。建物の構造体も同じように健全であることが重要です。
古い建物の健全性を見分けるポイント1耐震安全性
古い建物の健全性を見分けるポイントの1つとして、耐震安全性が確保されているかを確認することです。
建物は法律で安全性が保たれるよう構造計算の方法が規定されています。
建築基準法により、昭和56年6月1日以降に建築されるものは震度6強、7程度の地震でも倒壊しない水準でつくられていることが確認されるようになりました。
よって、昭和56年以降の建物構造はより頑丈につくられるよう法律で縛られていることになります。
もちろん、構造計算によってそれ以前の建物であっても耐震安全性を確認することも可能ですが一つの目安にはなります。
古い建物の健全性を見分けるポイント2構造種別
建物を支える柱・梁・床・壁・屋根などの構造躯体は、建物によって変わってきますが、マンションの場合コンクリートでつくられていることが多くあります。
一方、一戸建ての場合は、木造が圧倒的に多くなります。
コンクリートと木では、耐久性・耐火性の観点でコンクリートが優位で、より長く健全性を保つ可能性が高くなります。
古い木造の場合は、白アリや漏水による腐食なども考えられますが、十分な専門家の調査をすることで、それらのリスクを軽減することは可能です。健全性が確認できれば十分にリノベーションをして価値を高めることはできます。
古い建物の健全性を見分けるポイント3建物形状
古い建物、特に戸建の場合は建物の形状がシンプルであるか否かが重要です。
建物の形状が複雑な場合、建築構造上の不利となる点がいくつかあります。
・建物の重心が偏り、地震時の揺れが複雑になることで被害が増幅する可能性がある
・シンプルな屋根形状に比べて複雑になれば施工性が悪くなる
・複雑な形状は外壁面積が多くなり、改修時のコストが増大する可能性がある
現代の建物の場合は、複雑な形状であってもAI技術によって効率的に計算することが出来るので問題にはなりにくいですが、古い建物はそういった計算をせずに建てている場合が殆どで、シンプルな形状がベストです。
古い材を活かすリノベーションは一期一会の価値がある
リノベーションの新築にはない良いところは、時間をかけて醸成されてきた材を使うことができることです。
マンションであれば、コンクリートの構造躯体が何十年も前に打設された状態のものをむき出してつかわれることがあります。
昔のマンションは、新築時にコンクリート打放しのデザインをすることが少なく、コンクリートの上にタイルを張ったり、クロスをはったりすることで化粧をすることが主流でした。
そのため、新築時のコンクリートの表情は隠されることを前提につくられていますので、当時の職人はそれ程丁寧にはつくっていません。古いマンションの壁面クロスをはがしたコンクリートの表情が荒々しいものが多いのはそのためです。
当時の職人しか知らないコンクリートの荒々しい表情は、何十年と時間を経て汚れを付け加え一期一会の表情をつくってくれます。
古い木造家屋も同様で、仕上げ材を剥がすと何十年と時を経て醸成された構造躯体に出会えることがあります。
木造家屋の場合は特に、木のもつ独特な経年変化の様子が新築では感じることが出来ない味わい深さがあるように感じます。
これは、日本人ならではの詫び錆の感性があるからかもしれません。
楽器に似た古い材の良さ
建物だけに限らず、時間をかけて醸成することで価値が感じられるものがあります。
楽器についても時間をかけて醸成していくものの一つではないでしょうか。
バイオリンやギターなどの弦楽器に使われる本体の木の部分は、一生変えることなく使われ続けることろです。
楽器職人が丹精こめて造られ、音楽家によって何十年も使い継がれ素晴らしい音色となって新しいものにはない味わい深い音の空間をつくってくれます。
楽器で使われる材は、建築にも近しいところがあり時間をかけて醸成し味わい深い雰囲気をつくるところは似ているところがあるかもしれません。
バイオリンやギターなどの弦楽器では、本体となる部分に木がつかわれています。
弦は張り替えられますが、本体は変えられることはありません。
管楽器については、金属(真鍮)が使われています。この金属も経年による変化があり、味わい深さが出てきます。
建築も、木と金属がよく使われます。さらに楽器では使われることがない土やコンクリートがよく使われます。
木、金属、土、コンクリートの経年変化を楽しめる材の共通して言えるところは、その地のものを、職人のヒトの手によって出来ていることです。
現代でも、ひとつひとつ手の温かみのある材のもつ雰囲気は必要とされている
今や建築でも楽器でも工場で大量生産する材でつくることができます。
沢山のバリエーションがあり、コストも安く抑えられ、施工性もよいため、建物で使われる割合が徐々に広がりつつあります。
そんな中でも、楽器と同様に在来の木や金属、土などの手間のかかる材でつくられるものも消えることはありません。
経年により劣化し取り替えるところは、コストを掛けない工場生産品でメンテナンスし、ずっと使い続ける部分には、木や金属、土などの在来の温かみのあるもので経年変化を楽しむ。そういった現代ならではの楽しみ方も必要とされています。
リノベーションは温かみある素材を使えるコストパフォーマンスが高い手法でもある
すべて、木や金属、土、コンクリートなどの素材感のあるものだけを使ってつくることは現在の建築ではかなりコストがかかってしまうので、うまく新しいものと組み合わせて使うことが現在の美しい建築のつくり方の一つではあります。
リノベーションの場合、原状のクロスを剥がすと素材感のある木や金属、コンクリートがむき出しにされることになります。
この古い醸成された材を余すことなく使うことで、新築にはない味わい深い美しい空間が実現します。
リノベーションの知られざる魅力
リノベーションの魅力は、時間がつくりあげた素材をデザインに組み入れることが出来ることです。新しいものにはない時間がつくり上げた醸成された美しさがあります。
それら醸成された美しさはお金では買うことができず一期一会が生み出す奇跡でもあります。
古い建物の特性を理解し、リノベーションのリスクを軽減することで、新築では出来ない醸成された美しい空間をつくり上げることがリノベーションのもっとも大きな魅力ではないでしょうか。
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