日本の建物は昔から、深い軒のある形式が多く採用されています。
一方、最近の建物は庇のないツルっとした四角いキューブ型の建物がデザインされています。
四角い建物もスタイリッシュでかっこいいんですが、やはり日本の建物は庇がある方がなんとなくしっくりきます。
庇の本当の役割、庇の必要性について紐解いていきたいと思います。
日本の庇は、外壁に使われる素材が自然素材だったから必要だった。日本の庇は支える構造も美しい。
日本の建物は昔から、内外を仕切る壁や窓に自然素材の木や紙、土などが採用されており、雨の多い日本ではそれら自然素材の劣化を防ぐ意味合いで、深い庇をもつことは非常に重要でした。
ただし、深い庇をもつと屋根の面積が増え、雨や雪を受け持つための支えとなる構造材が必要となってきます。
そこで、大きな庇を支えるため、木造でも対応できるよう幾十にも重ねられた垂木で作られたものが多くあります。
木造建築の庇の構造美
外壁や室内を雨風から防ぐための庇を支える構造材となる垂木は幾重にも重ねられ、美しい構造体があらわれます。
それが現在盤に解釈され、美しい庇のデザインとして採用されるものもあります。
深い庇をもつ建築は、それら機能と構造から導かれるものが多く、これらは日本的な繊細な哲学が生み出したもので、四季や自然のような、人が意図してデザインされていないところの美しさを感じます。
現在でも、それら機能美を表現した深い庇をもった建築は沢山あります。それらを事例を交え解説していきます。
美しい庇事例
大阪木材仲買会館(設計:竹中工務店)
建物は、鉄筋コンクリートと木造のハイブリッド構造ですが、建物用途である木材仲買会館を表現するように、建物を見上げた時に最も目に入る軒裏部分に木材をふんだんにつかったデザインです。
深い庇をもつことで、外壁、窓周りにも木材を使うことが出来ます。
鉄筋コンクリートで、建物の耐震性や浸水時の耐水性に耐え、自然へ呼応するよう木材で建物の機能を表現する非常に美しい建物です。
鈴木大拙館(設計:谷口吉生)
独特なプロポーションで、深い庇を作り出していますが、軒先は限りなく薄く仕上げられ、軽やかな屋根で、白いシンプルな壁面と合わさり、建物コンセプトでもあるZENの静寂さを醸し出しています。
庇の軽やかさを作り出しているのは、軒先の薄さと、チェーン樋ですが、そのチェーン樋から落ちる雨の雫が水盤に波紋を描き、静寂との対比が感じられます。
美しい建物は樋のデザインが決め手となる所もあります。
京都国立博物館(設計:谷口吉生)
横に旧館があり歴史ある建物とうまく調和しています。大きく張り出した庇のデザインが特徴ですが、新しい技術、素材を使い歴史を継承するデザインとなっています。
牧野富太郎記念館(設計:内藤廣)
軒先をシャープに見せ、竪樋を途中で解放させたデザインです。
解放された竪樋の先には、雨水をためる瓶があり、気化することで周辺の温熱環境を整える役割もあるようです。
京都虎屋(設計:内藤廣)
内部の天井仕上げである木ルーバーが、外部の軒天に連続していき軒下の縁側空間と室内も一体感があります。
屋根の大らかさを室内でも感じられる例です。
メゾン・カレ邸(設計:アルヴァ・アアルト)
これは大学の建築学科の教科書にもよく出てくる建物ですが、
軒樋の端部が解放され、その下に雨受けの排水口がデザインされています。
雨の流れが視覚化され、軒樋と排水口が一体となった美しく楽しいデザインです。
新幹線の庇
これは新幹線入口部分の写真ですが、庇の存在はわかりますでしょうか。
扉上部に取り付いている、厚さ2mm程のわずかな鉄板を折り曲げた出っ張り15mm程の庇が取り付けられています。
この庇のおかげで、屋根を伝ってくる汚れた雨水が、乗客にかからず出入りが出来るように配慮されているものだと推測します。
新幹線の意匠や機能面にも殆ど影響を与えず、人の出入への雨垂れを防止する為の庇が最低限の寸法で取り付いています。
日本的な美しいデザイン性を強く感じます。
庇の機能とデザイン性
昨今では、外壁に木材や土壁を使うことも少なくなり、水に強い材質が普及してきております。
開口部についてもアルミサッシが防水性能や耐風性能、気密性能等様々な機能を有し、庇の外壁や開口部を守る意義が薄れ、コスト重視やデザイン重視の観点で庇のない建築物が増えて来ております。
確かに、庇のないデザインもスッキリしてかっこいいのですが、日本の気候では庇がある建築が向いているのではないかと考えています。
庇は外壁を守る役割だけでなく、雨垂れを制御する機能や日射を制御する機能、更には建物内外の中間領域を表す役割もあります。
庇は、外壁劣化低減、日射遮蔽、雨垂れ防止、内外の中間領域の役割を持った建築の非常に重要な部位であります。
日本の建築は更に機能面から表現される意匠や美しさにもこだわりを持って庇も作られてきていると感じます。
美しい庇を特集している文献
3、軒や庇で都市と建築のスケールをつなぐ、竹中工務店・米津正臣氏の設計術
まとめ
深い庇のデザインは、現在においても軒先を美しく見せることが重要で、日本の寺社や書院には 軒樋、竪樋をともに設けない例が多くあります。
樋がないため屋根本来のシャープな水平性、大らかさ、重厚感、荘厳さが感じられるデザインとなります。
深い庇のデザインは、日本の気候条件に適合し、四季を美しいと感じることができる日本人の感性で創られたもので歴史性も付加され、美しいと感じられるものになると考えられます。
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