住処となる建築は、何十年と長く付き合うもので建築に使われる材料の耐久性は、高ければ高いほどよいに決まっています。
建築で使われる材には、木や石、土などの自然素材が使われる場合と、コンクリートや鉄、ガラス、樹脂などの人工的なものが使われる場合があります。
自然素材も人工的な素材も、耐久性とは別に経年と共に変化するものと変化しないものがあります。
この経年と共に変化するのは仕方がないことで、変化するもの、しないもの、どちらが良いというものではなく、適材適所に組み合わせて経年変化を楽しむことが、長く付き合う住処を豊かな表情へと変えていくものになると考えます。
建築材料の耐久性が高いものは、長期間変化(エイジング)しないもの?
耐久性が高いとは、「長く使える」ことを意味します。
長い期間メンテナンスが要らず、材自体が雨や紫外線にも負けず変化しないものは、分かりやすい耐久性の高い例ですが、定期的に容易にメンテナンスや更新できる設えで、長い期間使える状態にあることも耐久性が高いものと考えることが出来ます。
容易にメンテナンス、更新できることがポイントで、メンテナンスや更新が出来ない設えや、メンテナンスの為に大改修しなければないらない設えの場合は、材自体が耐久性の高いものを選択していても本末転倒となります。
耐久性の高いものとは
では、どのようなものが耐久性が高いのか。
変化もせず、材自体にメンテナンスのいらないもの。それは石や土で出来ているものです。
建築材料では、石はそのまま使われることが多く、耐久性の高い素材としても認知度が高いものです。
土は建築材料としては、左官の材料や、焼いて瓦やレンガとして使われることが一般的です。ガラスの素材も砂で出来ています。
これら石や土で出来た建築材料は、材自体劣化や変化することがありません。(※樹脂などの化合物を配合した商品は別です)
ただし、雨や紫外線などの外的要因による汚れや褪せによる見た目の変化が起こりますが、これは材自体の劣化ではないため、味わいとしての変化でエイジングを楽しめる材です。
一方、木材や樹脂などの材は雨や紫外線などの外的要因により簡単に劣化します。
これら雨や紫外線などの外的要因により簡単に劣化する材は、劣化しないようなコーティングを施す、若しくは、外的要因の影響を受けない室内で使用することで長く使うことができます。
耐久性の高いものは、その材と下地、表層を覆う仕上材のすべてのバランスが重要
石や土(瓦やレンガやガラス)のような経年劣化しない耐久性の高いものは、それらを取り付ける下地材も重要となり、建物全体での耐久性に関わってきます。
例えば、石の場合は、コンクリートに埋め込ませて取り付ける方法と、金物で取り付ける方法があります。
地震時の揺れに追従するためには、後者の金物で取り付ける方法が昨今では一般的になりつつありますが、この金物は耐久性の高い石と取り付ける下地となるため、金物自体の耐久性も必要となってきます。具体的には、鉄ではなくステンレスなどの金物の中でも耐久性の高いものの選定が必要です。
また、木材などの経年で変化するものについても、木材を取り付ける下地材と、木材を雨や紫外線から保護するための表層コーティングが建物全体での耐久性に関わってきます。
木材自体を腐らないようなコーティングを施し、下地材も劣化しない金物とすることで長期間の経年劣化に耐えるものとすることも可能ですが、木材の場合は木材らしい経年変化を楽しむ使い方もあります。
木材は、経年により変化していきますが、それが味わいとして感じられる材でもあります。この変化を許容し長く使うこともできますが、何十年と使ううちに交換する必要性が出てきた場合は、容易に取り外して、更新できるような作り方が出来るのも木材のいい所でもあります。
このように経年変化によるメンテナンスや更新を許容する方法では、下地材も簡素化し、表層のコーティングもなしとすることが出来るため、イニシャルコストやランニングコストを抑えることに繋がります。日本の良き木造建築(京都の町家など)と同じ考え方です。
メンテナンス時期を考慮した材自体の選定と、材の下地材及び表層コーティングをバランスよく計画することが長い年月で見た時に総じてコストパフォーマンスを高めるコツともなります。
長い年月で見た時に耐久性の高さは、経年変化(エイジング)に耐えうるもの
長く使えるものが耐久性が高いものと定義するのであれば、経年変化しないものだけでなく、経年変化に耐えうるものも含まれます。
長く使える耐久性が高いもの
- 材自体にメンテナンスのいらない石や土で出来ているもの
- 下地材や表層コーティングも含めたバランスよく全体的に耐久性を高めたもの
- 材の素材を活かしたイニシャルコスト、ランニングコストを抑える経年変化を楽しむもの
耐久性とコストの関係性
建築材料ではコストとの関係性を考える上で、イニシャルコスト(初期投資費)とランニングコスト(長期にわたりメンテナンスや更新に必要とされる費用)の両方を考える必要があります。
耐久性の高いものは、コストが高いもの?
耐久性の高いものは、イニシャルコストが高いものとイメージされるかもしれませんが、ランニングコストを考えれば、一概にコストが高いものとは限りません。
建築材料のイニシャルコスト、ランニングコストを見ると下記表のイメージです。
※下記表では、外装材をイメージして比較し、窯業系サイディングを1.0として評価してます。ランニングコストは60年間使用すると想定しています。
材種 | イニシャルコスト | ランニングコスト | 総コスト |
---|---|---|---|
石 | 2~5 | 0 | 2~5 |
土(タイルやレンガ) | 2~5 | 0 | 2~5 |
土(左官) | 1.5~3 | 0 | 1.5~3 |
木板張り(杉板) | 1~2 | 0.2~2.0 | 1.2~4.2 |
木板張り(焼杉) | 2~3 | 0.1 | 2.1~3.1 |
窯業系サイディング | 1.0 | 1.0 | 2.0 |
薄肉鉄板(ガルバなど) | 1.0 | 1.0 | 2.0 |
厚肉鉄板(コールテン) | 4~5 | 0 | 4~5 |
ハウスメーカーや工務店で最も選ばれている窯業系サイディングや薄肉鉄板(ガルバ)などは、イニシャルコストは安くつきますが、60年間では定期的に塗り替えのメンテナンスが必須となります。
石やタイルについては、イニシャルコストが高くつきますが、メンテナンスは殆ど不要となります。選ぶ材によっては、60年間の総コストが窯業系サイディングとそれ程変わらない結果となる可能性もあります。
注意)石やタイルの場合は、下地も同等の性能を有する金物で取り付けられていることが前提です。
長く使うことにより結果コストパフォーマンスも高くなる≒耐久性が高いにつながる
石やタイル、レンガ、木材などは、長く使えば使うほど味わいが出てくるものです。
イニシャルコストの比較的高い石やタイル、レンガは、経年による劣化が殆ど起こりませんが、イニシャルコストの比較的低い木材は使う樹種や部位によって劣化しメンテナンスや更新をする必要があります。
具体的には、水に濡れてしまう床材や外壁に、水に弱い杉などの木材を使用する場合は、メンテナンスや更新が必要となります。
逆に、水がかかりにくい部分(例えば、軒がある外壁など)へ使えば、ずっとメンテナンスなしに使用することが出来、コストパフォーマンスが高くなります。
日本の寺社などは、軒のある部分に板材が使用されていますが、百年以上経った今もメンテナンスなしで使い続けられています。
経年変化を楽しむことでランニングコストの削減につながる
木材は石やタイルに比べイニシャルコストが低く抑えられますが、経年変化の起こりうる材です。
ただし、窯業系サイディングや薄肉鉄板(ガルバ)のように、塗り替えしないと見た目も性能も維持できない材とは異なり、味わい深く経年変化(エイジング)していく材です。
見た目は、木の茶色が抜けてシルバー系へと変化していきますが、これが木材の経年変化の面白い所です。建築的に木材が朽ちない工夫(雨かかりとならない場所への使用や、通気性のよい場所への使用など)により、木材のもつ性能は落ちることはありません。
この経年変化を楽しむことで、ランニングコストを抑え長期にわたる総コストを抑えることに繋がります。
耐久性に関わる経年変化(エイジング)する材の特徴と楽しみ方
経年変化(エイジング)を楽しむことで、建物全体としての耐久性が向上することに繋がります。
経年変化(エイジング)を楽しむコツは、経年変化に耐えうる材の選定が重要となります。
経年変化を楽しめる材の特徴は自然と時間を感じられるもの
経年変化を楽しめる材とは、経年変化しても味わいとして感じられるか否かにかかってきます。
これは、詫び錆の心に通じるところがあります。日本人は「古さや静けさ、枯れたものから趣が感じられること」を美しいと感じられる人種です。
石に生えたコケを見た時に、緑の美しさはもちろん、それが育つまでの時間にまで思いが巡り美しいと感じてきました。
紅葉が散りゆく時に、そのはかなさや残った枝の寂しさ、やがて訪れる四季を想像して美しいと感じてきました。
いずれも、自然のものに対する時間軸に対して美しさを感じています。
経年変化を美しいと感じられるものと、そうでないものがある。
自然の時間軸を感じられるところに美しさを感じることが出来る日本人ではありますが、時間軸だけが見えてしまう場合は美しさを感じることが出来ない場合もあります。
それは、危険や不安を感じられる経年変化です。
例えば、経年変化で屋根が傾き瓦が落ちそうになっている場面や、外壁の劣化が進行し内部のクロスや天井材にカビが生えている場面では、美しさは感じることが出来ません。
建築はヒトが造るもので、自然には到底かなうものではありませんが、ヒトが愛情をもって作り上げ、怪我をすれば治療し、長い年月を経て育て上げることで、自然に近しい趣が感じられるものとなります。
健全に長い年月をかけ、経年変化していくものに美しさを感じるものです。
日本だけでなく、海外にも100年以上も健全に、その時その時の表情を持ちながら、今の美しく佇んでいる建物も沢山あります。
日本では木造建築が有名ですが、海外ではレンガや石を積み上げた歴史ある建物が有名です。どちらも自然のものを使って、長い年月に耐えられる形をもって現在も美しく佇んでいます。
それは、子どもと同じように建物を愛情をもって育て上げているものに違いありません。
現在の材料・技術で、経年変化を美しいと感じられるポイント
昔からある、日本の木造の建築物や、海外の石を積み上げた建築物は、現在の材料や技術で作り上げると非常にコストがかかりますので、経済性を考えると現実的ではありません。
ただし、現在の材料や技術でも、経済性を考慮しながら、長い年月に耐えうる美しい建築を作ることも可能です。
それは、経年変化を出来る限り美しく見せるコツがいくつかあります。
経年変化を美しいと思わせるコツの一つとして、雨がかりとなる部分への材の選定と、庇のデザインの関係性があります。
例えば、雨がかりとなる部分と一部庇があり雨がかりとならない部分がとなり合わせになる場合、数年から十数年で劣化の進行が大きくかわり、見た目の時間軸に時差が生じることになります。
部分的に劣化が進行するようなデザインではなく、全体的に時間軸に時差が生じないシンプルなデザインが経年変化を美しいと自然に感じられるポイントとなります。
耐久性の高い建物は、自然素材を自然に感じられる建築を育て上げること
建築材料の耐久性は一概に、長い期間変化しないものを示すのではなく、長い期間楽しめるもの、美しく感じられるものも含まれると考えられます。
日本では特に、年月の変化に対して美しいと感じられる感性があります。
特に自然素材に対して趣や味わいを感じることが出来ます。
健全に長い年月耐えうる建築の作り方で、自然素材をうまく利用し、ヒトが愛情もって育て上げることで、最も耐久性の高い建物が実現するものと考えます。
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