美しい建物は、構造力学的に優れているものが多く、またその構造のヒントとなるものは動物や植物などの自然界から得ているものが多くあります。
構造体=骨格、正しい骨格を維持しているヒト・クルマ・イエは美しい。
建築の骨格は、柱・梁・壁・床などの複数の鉄や木やコンクリートで構成される構造を示します。
ヒトの骨格は、関節で結合した複数の骨および軟骨によって構成される構造のことを示しています。
どちらも、「支える」ことを第一の目的として、次に「曲がる」「回転する」などの動きに対応するための機構を備えることになります。
ヒトの骨格は正しい姿勢で美しさが保たれる
日常から猫背であったり、足を組む癖があると部分的な負荷がかかり体のバランスを崩すことがあります。
なにもしなとも、生活を通じて、体の上下左右のバランス、骨盤位置などは誰でも少しづつ崩れてきます。
正しい姿勢を保つことでその崩れを緩和できたり、体のメンテナンスを通じてバランスの矯正を取ることができます。
美しい姿勢、健康な体と心を保つためは、体幹を鍛えることですが、体幹は美しい姿勢を保つことで鍛えられます。
正しいバランスを保つことが、美しさを保つことに繋がります。
クルマのデザインについても、骨格と必要性能の一致が美しさに繋がっている
マツダのデザインが一気に変わった瞬間があったのは、記憶に新しいことだと思います。
2014年頃に、マツダのあるデザイナーが肉食動物チーターの美しい動きに目をつけ、「野生動物が獲物をねらうときに魅せる一瞬の美しい動き」と「スピード感あるれた緊張感と安定感のある美しい動き」をクルマのデザインに取り入れられないかと考えたのがきっかけだったようです。
「チーターが獲物を狙うときに、様々な動きをするが、顔と軸は全くぶれていない。どんなに動こうがしっかりとした背骨、軸が通っている」これはクルマのデザインも一緒でしっかりとした骨格を作ったうえにフォルムの表現をしていかなければならない。
例えば手足であるフロントフェンダーやリアの表現も、きちんとした軸があるからこそ動かしても安定感があり、スタンスの良さが見えてくるのだ。
マツダデザイナー
この考え方は、建築の美しいイエの考え方、ヒトの美しい骨格の考え方にも通じます。
建築物の骨格(構造体)は、荷重を支え、地震力や耐風圧に耐えうるもの
建築物の骨格は、ヒトやクルマほど常日頃激しく動きませんが、台風や大地震などの外力に対して耐える、逃すなどの力の伝え方を変えながらカタチを保つよう設計されています。
建築物の骨格(構造)のデザイン
建築物の骨格となる柱や梁等の構造体は、雨や紫外線等の外的な要因から劣化を防ぐために、鉄板やガラス、レンガ、木材等の外装材で包み込まれデザインされることが多く、外装材によって骨組みが分からない状態となります。
それら外装材等の表面的なところでデザインするのではなく、その建物の骨格となる構造体表しで作られ造形美を生み出してる建築物があります。
構造力学によるデザイン
建築物や橋、タワーなどの地盤に安定する構造物を構築する際に、その構造物の必要とされる骨格の大きさや配置が構造力学により導き出されます。
構造力学による建築設計は、専門性が高く一級建築士の中でも構造を専門にしているものでなければ、設計することが出来ません。法律により「構造設計一級建築士」でなければ設計出来ない建物もあります。
構造力学は、構造物が重力による荷重や、地震や風による外力を受けた時に作用する力を解析する学問で、力の流れをデザインします。
構造物の部材には、水平方向への力、鉛直方向への力、回転しようとするモーメントが作用し、これらがうまくバランスするよう計算により適正な部材寸法や配置が導き出され、構造物の骨格が出来上がります。
この骨格を美しいバランスで導き出すことで圧倒的な造形美を作り出すことが可能となります。
日本的な構造デザイン
世界には、美しい造形美をつくりだしている建物が沢山ありますが、ここ日本でも日本ならではの構造デザインによる造形美をつくりだしている建築物があります。
木造建築物
日本には木造の美しい建物があります。
運搬、揚重等の大型重機がない時代に、人力で持ち上げることのできる範囲の小さな材を組み合わせ、大規模な屋根架構を成立させています。
木材は日本のどこにでもある材であり、そのどこにでもある材を使って組み上げる日本人のならではの繊細な技術で、地震にも強く、今なお美しく現存している建物も沢山あります。
また、雨の多い日本では、軒先を長く伸ばすことは、建物を雨から守る上では理にかなった形状で、幾十にも重ねながら構造的に成立させる様は、軒下に豊かな空間を作り出し日本ならではのデザインとして認識されます。
これらの技法は、現在でも応用されながらもデザインに組み込まれていて、この木材が組み込まれる構造美は、一つの日本的なデザインとして意識されています。
壊れることを前提につくられる美しい構造美も存在する
日本では、壊れることを前提につくられている橋があります。
それは、京都府南部の木津川にかかる上津屋橋です。
1953年に建設され、当時資材調達が難しかったためコンクリート製ではなく、木製の流れ橋の構造が採用されています。
水かさが増すと、抵抗を減らすために、載せられただけの橋板が水に浮いて流される仕組みになっています。水が減れば流された橋板を回収して復元されます。
賛否あるようですが、流れに逆らわないデザインで美しく感じます。
こんな美しい繊細な橋が実現できるのは、流れに逆らわないからです。
川が増水した時、こんな繊細は柱、梁では到底耐えうることができません。
また、人が通行する際の安全のための手摺もありません。なので、あえて流してしまう。
この逆らわないデザインが、この繊細な美しいプロポーションを生み出しています。
まるで手品のような宙に浮かぶ構造テンセグリティ
構造力学上、一般的には地盤面に接して、そこから安定するよう柱や梁が強固に組みあがり一つの構造体を作り上げるものですが、このテンセグリティは、その構造力学上の作用する力をバランスさせ、強固な部材と部材が接していないように見えるため、まるで宙に部材が浮いているように見える構造物です。
工学的な研究が十分ではないので、建物等には採用されることはなく、オブジェや芸術作品に採用される程度ですが、力の作用をうまく解析した構造美です。
この考え方も自然の中からヒントを得て作られています。
建築物の構造美(デザイン)は自然界からヒントを得ている
建築の中でも、マニアックな分類かもしれませんが、構造力学による建築のデザインは、外装材等の見た目だけの美しさだけでなく、力学上安定させるための造形で、圧倒的な美しさがあります。
特に、タワーや橋、ダム等の大規模なものになればなるほど、装飾的なものがなく、構造力学上最も効率的な形状によりデザインされ、長い年月に耐えうる構造物となっています。
コメント
コメント一覧 (1件)
[…] 建築物の構造美(デザイン)は自然界からヒントを得ている […]