耐震安全性に配慮した天井デザイン

地震大国日本では、建物の柱や梁などの主要な構造部材については、法律や技術基準によって厳しく審査され安全な建物が建てられる仕組みが整っています。

一方、主要な構造部材以外の天井や間仕切り壁などの非構造部材の安全性確保は、設計者の判断に委ねられています。

特に天井については、大地震時に落下の危険性もあり、デザインだけでなく耐震安全性に十分配慮した設計が必要となります。

目次

天井の耐震安全性を担保されているのは大規模建築物と公共建築物だけ

天井の耐震安全性が担保されるのは、建築基準法の「特定天井」に該当した場合と国の重要施設のみです。

天井の耐震安全性が担保される特定天井

特定天井とは、200㎡以上、天井高6mの大規模な空間に該当するものです。

特定天井以外の天井の耐震化については、法的な制限はなく設計者判断によることになっています。

天井の耐震安全性が担保される国の重要施設

国の重要な官庁施設などについては、以下の基準により安全性が保たれるよう整備されています。

官庁施設の天井耐震安全性の基準類
・官庁施設の総合耐震・対津波計画基準及び同解説
・官庁施設の基本的性能基準

上記基準の非構造部材の設計用標準水平震度については、下記のように設定されています。

非構造の耐震分類Aの場合の設計水平震度

1階及び地下階 0.6

中間階及び上層階 1.0

非構造の耐震分類Bの場合

1階及び地下階 0.4

中間階 0.6

上層階 1.0

上記の水平震度を満足するか否かを確認するには構造計算をする必要がありますが、在来のLGS天井下地では、通常構造計算は行われず施工されます。

在来LGS天井下地での水平震度の計算はメーカーでは対応不可であるため、構造設計者での個別計算が必要となります。

国の重要な官庁施設では、基準の水平震度を満たした設計が行われますが、それ以外の建物は上記基準に満足しているかしていないか分からないのが現状です。

一般建築物の天井デザインの耐震安全性の考え方

官庁施設以外の一般建築物についても、設計者として安全性の担保をどこまで考えておく必要があるか。1つの考え方として以下の整理ができると考えます。

特定天井の場合

200㎡超、天井高さ6m超の特定天井については、法的に審査されるため構造計算書が必須となるため安全性は担保されます。

特定天井については、各社専門メーカーの商品を採用すればメーカーの技術協力により確認申請まで対応可能です。また、在来で設計する場合は構造設計者による構造計算書による対応となります。

特定天井以外の場合(一般解)

200㎡以内の面積が小さく、天井面が平坦で、天井懐が1m以内の天井下地が大きく揺れないと想定される場合は、官庁施設の総合耐震・対津波計画基準及び同解説に記載の「標準仕様書の仕様は、耐震性が確認されたものではないが、標準仕様書を参考に適切に使用を決定したものは、当該ランクに相当するものとして扱っている」を根拠に判断できます。

面積が大きい場合や、天井懐が大きい場合、天井デザインが特殊な場合は、個々の構造計算検討が必要と考えます。

特定天井以外の場合(グレード1)

特定天井には該当しないが、安全性が必要とされる施設や用途の場合は、耐震天井と同等の構造計算を用いる検討が望ましいと考えます。

メーカー仕様で設計する場合は以下です。
桐井製作所「新耐震 DELTA Power」、オクジュー「SDタイプ」などがあります。
各メーカー水平震度計算の根拠作成可能です。

注意)原則、ボード面で剛性を確保する評価となる為、ルーバー天井や特殊デザインなどは不可で設計自由度が低い。

在来設計での場合は、天井を揺れない構造としてデザインします。
例えば、C型鋼などを躯体からブドウ棚状に吊り下げたところへ直接野縁を固定する方法があります。
オクジュー「準構造化天井材OJ型シリーズ」、モリソン「JM金具」など水平震度計算の根拠作成可です。
特徴としては、天井が構造的に固定されるため、ルーバー天井など設計の自由度が高くなります。

特定天井以外の場合(グレード2)

次に安全性の必要な施設として、水平震度1.0の根拠をもっておきたい場合です。

(特に求められていないが、設計者として何らかの根拠がほしいとき)

LGSメーカーの地震対策天井(水平震度1.0確保)のブレース、ビスハンガー、クリップ補強などの仕様を検討します。

例)桐井製作所「耐震Power天井」、オクジュー「TSタイプ」など

水平震度計算の根拠作成可。ボード面での評価となるため、設計自由度は低くなります。

特定天井以外の場合(グレード3)

天井面積も小さく、重要性も高くない場合です。

地震大国日本では、今後これが最低グレードとして考えておくべきかと個人的には考えます。

ビスハンガークリップを仕様書に明記し落下防止に努める。
例)オクジュー「REタイプ」など。水平震度計算の根拠作成不可。低コスト。

まとめ

地震大国日本では、建物の耐震化は必須です。

構造体部分については、法や基準類が整備されていますが、それ以外の非構造部材については、まだまだ整備がなされていません。

特に天井材は、落下すると人命にかかわるところで耐震安全性に配慮すべき部分です。

ただし、すべて耐震化する必要もなく施設の安全性グレードや、天井のデザイン、経済性により耐震化を考慮すればよいかと考えます。

何も考えずに、今まで通り設計するのが最も危険で、上記のグレード感を発注者と設計者での共通認識をもつことが重要だと考えます。

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この記事を書いた人

・一級建築士
・インテリアプランナー
幼少期から大学までは和歌山の実家で田舎暮らし。
大手ハウスメーカーで累計約40棟の住宅を技術営業として担当。
その後、組織設計事務所に転職し、学校・庁舎・道の駅・公民館・発電所等の主に公共建築物の設計に携わる。
現在は組織設計事務所に所属し、日々建築設計業務に取り組む傍ら、建築系webライターとして建築に関わるマニアックな情報から住宅購入に関わる内容まで幅広く発信している。
和歌山から、大阪、東京と住まいを移し、また和歌山戻り、田舎に自邸を建てる。

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