窓周りのしつらえの良し悪しで、建物の印象に与える影響は非常に大きいものだと感じます。
日本では、庭園や自然の空間も室内に取り込むように、内外が緩やかに区切られ、その内外の曖昧な縁側に趣が感じられています。
内外の区切りが曖昧な縁側は非常に豊かな空間となり、日本人を落ち着かせてくれます。
現在ではプライバシーや温熱環境、水密性、気密性等の求められる機能が多く、窓周りがあまり豊かではありません。
そんな現在要求水準を保ちつつ、美しい豊かな窓まわりを実現している事例もありますので紹介していきたいと思います。
窓をつくりあげる建築部材は沢山あり、一つ一つ意味をもっています。最も美しいのは、もっともシンプルに作ること。
窓は様々な部材・要素で構成されています。
窓の最も基本的部材、サッシとガラス。現在は温熱環境や防虫や台風に対する要求性能が高く、その他の部材がごちゃごちゃ必要
まずは雨水が室内に入ってこないようにする「サッシ」といわれる枠と「ガラス」で窓は構成されています。
サッシの種類
サッシには、木、鉄、アルミの大きくはこの3種類のどれかで作られています。
昔は木、鉄が主流でしたが、現在はアルミのサッシが主流となっています。
アルミのサッシは、耐風圧、水密性、気密性、断熱性、防火性など、現在の住まいに求められる機能をすべて満足させる性能を満足させることが出来ます。
ただ、アルミサッシは意匠面でやや冷たい感じがありますので、建築家はあえて木や鉄のサッシを使う場合があります。
ガラスの必要性能
ガラスは、外部からの雨や風を防ぎ、室内へ光や眺望を取り入れる非常に便利な部材です。
ガラスは、一般的にはサッシに取り付くことになりますが、台風や地震等で割れないようにする為に隙間を開けて取り付けられています。
その隙間は雨や虫が入ってこないように、バックアップ材やシーリング材が充填されています。
このバックアップ材やシーリング材の寿命は、サッシやガラスに比べて短いものとなりますので、ほおっておくと、雨水が侵入したり、虫が侵入することとなりますので、シーリングの交換が必要となります。(最近のシーリングは耐久性が高いので、めったに交換は必要ありませんが、20年ぐらい経てば、シーリングが硬貨してひび割れてくることがよく見受けられます)
その他の窓周りの部材
サッシと室内仕上げ材との取り合いには、見切り材としての額縁が取り付きます。
額縁は意匠的なデザインで取り付いていると思われているかもしれませんが、これは、施工上サッシと内装仕上げをきれいに仕上げる為のもので、デザインで取り付いているわけではありません。
更に、虫が入ってこないようにする為に網戸をつけたり、日除けの為の障子やカーテンが取り付いたり、外部側には台風対策の雨戸が設置されることもあります。
更に更に、断熱性を付加するために、窓の内側へもう一重窓を追加する場合もあり、開口部周りには沢山の部材が取り付き、機能面ばかりが追求され、窓周りがごちゃごちゃします。
昔の窓周りはいたってシンプルに。シンプルが最も美しい!
昔の建物は、雨風を防ぐだけの最低限の部材で、
非常にシンプルでしたので窓回りが美しいです。
昔の窓周りは、縁側や軒があることで、さらに窓周りをシンプルに魅せている。
日本の昔の建物が、軒の出が深く取れている所にも、窓回りが美しく見える要因があります。
軒を深くすることで、通常の雨風であれば窓を開けていても室内まで入ってくることがありません。
また、今ほど雨風に対してシビアに防ぐことをしませんでしたで、窓回りに期待される性能がそれほど高くなく、雨風に対する装備をせずにシンプルに窓周りを構成できたと考えられます。
軒を深くすることで室内はやや暗くなりがちですが、外部の光が際立ち開口部周りが逆光となり、
余分な要素が排除され余計に美しく感じさせてくれます。
現在の住まいでは、要求される性能が高すぎてシンプルに出来ない。
現在の住宅は、軒の出た空間はほとんどなく、庇もほとんどないデザインが多くなっています。
窓回りに期待する性能も高く求められますので、防水性、排水能力、気密性、断熱性、遮熱性、防虫等々、付加される設備、部材が必要過多の状況となっています。
それら性能面を重視する傾向もありますので、工場で精密につくられたアルミサッシが普及することになっています。
アルミサッシで構成される窓周りが、今や街の風景ともなっています。
美しい窓まわりの事例紹介
東山魁夷せとうち美術館(設計:谷口吉生)
この写真は瀬戸内海を望む場所に立地する美術館内のカフェです。
建具の存在が殆ど消え去られ景色をパノラマで楽しむことが出来ます。
ガラスの支持方法による、窓のパノラマビューとする工夫
これは美術館建築で、よく採用される工法ですが、
ガラスを支持する建具枠をまず消し去ります。
方法としては、ガラスは上下で固定し、
ガラス上下固定部分の枠は床と天井内に隠してしまいます。
また、天井材、床材共に室内から室外へ連続して見えるように計画します。
一般的には、縦方向やコーナー部にサッシ枠が出てくるのですが、
ガラスは上下固定し、左右は固定せず、ガラスとガラスの間は20mm程度の透明シーリングで納めますと、
上記写真のような綺麗に景色を見せることが出来ます。
美しさを保ったまま、必要性能も確保する現代の窓周りの技術
この方法はいろいろな技術が詰め込まれています。
ガラスを上下固定だけにすると耐風に対して弱くなりますが、
ガラスを厚くすることや、強化ガラスや合わせガラスを使用することで上下固定が可能となります。
また、美しく見せる為にガラスは複層としていませんが、断熱性能を上げる為にガラス下部にグレーチングを設置し、
そのグレーチングからエアーカーテンで断熱性能を確保する工夫が施されています。
ガラスは床から立ち上がっていますので、衝突防止が必要ですが、
よく見ていただくと足元にH300mm程度の所に衝突防止のバーが設置されています。
このように様々な技術を組み込むことで、機能面を確保した上で美しい窓廻りが実現できます。
京都とらや(設計:内藤廣)
室内の木ルーバーが屋外へ連続していく様が非常に美しい。
外部からの光が天井の木ルーバーにグラデーションの光を与えています。
この建具の納まりはかなり特殊な方法で納めています。
通常、ガラスを支えるサッシ枠は上下左右ぐるりと存在し、
その枠は躯体(鉄骨柱や梁等)に強く固定され耐風圧等に耐えうる仕組みとなっています。
この例では、建具の上部に隙間を空けて外部の光が天井を沿うように計画されています。
上部の固定がされていないことで、
光が通過し見た目は非常に軽やかに見えます。
耐風圧に対しての対策としては、サッシの室内外にサッシ固定用の柱が存在し、
サッシ枠上部へ腕を出して固定しているのが確認できると思います。
こうすることで、耐風圧にも耐え天井面の連続性も確保できる納まりとなります。
この事例では、昔の建物同様に軒を深く出しているので、直接雨かかりとなりにくい為、木製の障子が採用され京都らしさも感じられる雰囲気があります。
京都らしい見せる木と、見せない枠による光の演出で実に美しい窓廻りになっています。
木材会館(日建設計)
この建物は木材をコンセプトとしていまして、木の良さが一番感じられるようなディテールの工夫が見られます。
一般的に木材を使用しますと、山小屋のようなゴテゴテしたデザインになりがちです。
木材は性質上ある程度の厚みがなければ強度が出ませんので、
どうしてもシャープになりにくい材料です。
通常は出来る限り窓廻りの部材を細く見せる工夫を考えスッキリ見えるように考えるところですが、
この事例ではあえて木材を100mm程度の角材で木材の存在感を強調しています。
木材とガラスの取合いについても、ガラスと木だけで構成されているように見える納まりとしガラス周囲の部材は大きいですが、
スッキリした外観で、かつ木材もいい感じで感じられます。
この窓廻りのデザインが建物全体のデザインを支配し、建物コンセプトを非常にうまく表現されています。
日本の美しい窓周りから、現代の窓を美しく見せるデザイン
今回は窓廻りで美しくみえる事例3件紹介しましたが、
「とにかく枠を消す」・「部材を細く」が多いですが、それ以外にも細かな技術の結晶で、窓まわりを美しく見せる工夫を施しています。
昔のようなガラスもない縁側空間は、現在においては問題が多く採用することはできませんが、技術をつかって縁側のような美しく、気持ちのいい空間をつくることは可能となってきています。
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