左官壁や瓦は、日本ではお馴染みの素材で何となく落ち着きます。
最近はあまり見なくなりましたが、日本では昔から長年親しまれてきた素材です。
昔から長年親しまれている左官壁と瓦はどちらも土で出来ています。
左官壁や瓦は、その地にある土を使って建築の素材として組み込まれることとなり、
現在の工場で作られる人工的な素材とは異なり、その地にある素材で作り上げる建築は圧倒的なオーラを発します。
左官壁や瓦をつかった現在の美しい建築
左官壁や瓦をつかった建築は、現在新築されるモノでも古風な感じはせず、現代風にアレンジし美しく完成されているものがあります。
道の駅ましこ 設計/マウントフジアーキテクトスタジオ
この建築は、2020年日本建築学会賞を受賞したMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO設計の「道の駅 ましこ」で、建築地の風景や風土を継承するコンセプトで地域の特徴である里山や、田んぼの風景、土の恵みで暮らしている風土を建築に表現しているものです。
立地は郊外の戸建て住宅や田んぼがあるような所で、道の駅のスケールはそれら住宅等に比べかなり大きな規模ですが、屋根勾配を里山の稜線に合わせ、屋根を分割し山々の重なりを表現することで人のスケールに近づき地域にも馴染む建築になっています。
この建築は、内外装に左官壁を採用していますが、まったく古風な感じはしません。
しかも屋根が木造で、木部が表れていますので、木造と左官壁の組み合わせで、特に古風なイメージが付きそうなものですが、まったくそれらを感じさせません。
ポイントは、シンプルな空間構成だと思います。
大きな屋根で、地域の山々を表現する木造架構と、土地の恵みを表現する左官壁をシンプルに組み合わせているところが美しく感じるポイントです。
この「シンプルに組み合わせる」が実は難しいのです。
シンプルな架構の形成
どっしりとした左官の壁に大きな木造架構がのっかっているだけに見えますが、もちろん大地震が来たときに屋根が落ちないよう固定されていなければなりません。
本来であれば、木造架構と壁をつなぐ金物が見えてきたり、地震に対して踏ん張ろうとするブレースなどが必要となってきますので、なかなかこうもシンプルにはいきません。
空調等の機器モノは出来る限り空間に表さない。
また、設備関係機器もほとんど感じられません。楕円形の照明機器はインテリアに合わせて配置されていますが、これだけの空間であれば、この照明だけでは必要な照度が確保できませんので、このシンプルな空間構成の邪魔にならないようかくれんぼしているのです。
これだけの大空間ですので、室内の温度、湿度を調整するための空調設備や換気設備もかなり大きなものが必要となってきます。それらも一切感じさせない。
地域の風土を表した建築材料
建築の技術的な解の上に、地域の特徴である田んぼの風景、土の恵みで暮らしている風土を左官壁に込められているところが、建築に圧倒的なオーラをまとわせることなっていると思います。
竹中大工道具館 設計/竹中工務店設計
この建物は、神戸にある「竹中大工道具館」です。
詳しくは、上記のホームページになりますが、こちらも瓦と左官壁が沢山使われている建築です。
まったく古風な感じはせず、非常に美しい建物です。
先ほどの建物と同様に、空間構成が非常にシンプルです。
浮遊感のある瓦屋根
重い印象となりがちな瓦屋根の外観を、大きなガラスで構成した壁面によって、まるで屋根が浮いているような軽快さがあります。
中に入れば、さらにその屋根の軽快さはさらに増し、天井の木質ルーバーが外部まで連続し、内外の堺もあいまいに感じます。非常に心地の良い空間でした。
シンプルな土(左官壁)、木、ガラスの組み合わせ
こちらも、伝統的な左官壁があちこちに使用されていますが、木、ガラスとシンプルに隣り合うことで、それぞれ素材の良さを引き上げているかのようでした。
ここに既製品のアルミサッシや、木の見切り材、塩ビの巾木が隣り合わないよう、ディテールを丁寧に検討しなければなりません。
土の成分による地域性について
土を使った左官壁や瓦については、うまく使えば素材感があり、歴史も感じられる非常に魅力的な建築マテリアルですが、デザイン面だけでなく、「地域性」も付加されるところも魅力の一つです。
昔は現在のような工場で大量生産したものを、トラックや船を使って建築地まで運んで組み上げることは出来ませんでしたので、その地にある材料である木や土を使って造ることが当たり前でした。
成分の違いによる土の活かし方と地域性
その中で特に土は、地域によって含まれている鉄分等の成分が異なり、その成分の違いにより、色や粘性等が異なってきます。
それらの特徴を活かした建築へアプローチが異なり、それぞれの地域の特徴が滲み出る材料のひとつです。
島根県では、鉄分が多く赤い瓦屋根となる
中国地方では赤い瓦の屋根が多くみられます。
鉄分が多く含まれる土を焼いて作られることで、色味が赤くなるのが特徴となります。
それを建築のデザインへ取り込んだ島根県芸術文化センターで、通常瓦は屋根に使われますが、こちらの施設は、200年以上の耐久性を鑑みて、屋根と壁面に島根県でとれた土を使った赤瓦を全面に使用しています。
沖縄の素焼き瓦は、台風対策
沖縄地方では素焼き瓦(レンガのようなあたたかい感じの瓦)を見かけるかと思います。
これらは、あえて土を焼く温度を低くしレンガに近いような質感に仕上げます。
通常瓦は雨水から建物を守るため、高温で焼き上げ緻密に仕上げますが、沖縄の場合、台風が多く、瓦が吹き飛ばされないようにする必要があり、緻密さよりも重さが必要だと考えられたようです。
土を低温で焼くことで、水がしみこむ程度の瓦が出来上がり、雨が降ると水がしみこみ、瓦自体の重量を重くします。
そうすることで、台風時に瓦が吹き飛ばされないようにしています。
また、高温な沖縄ですので、雨が降ったあと瓦に染み込んだ雨水は気化し、自然と周りを涼しくしてくれる役割もあります。
土で作られる左官壁や瓦は、そんな地域に密接な関係にある材なのです。
左官壁(土)の性能について
左官系の壁については、古くから一般住宅でもよく使われてきた技法でありましたが、施工出来る職人の減少、施工に時間がかかる、施工が悪ければ経年でひび割れや剥がれが生じる等の理由で土を使った左官壁の需要が一気に減り、代わりに施工性が良く、コストも安いクロスの需要が高まり、最近の住宅では殆どがクロス壁に変わりました。
ただし、一部の職人や建築家、土壁の魅力に惹かれるお施主様によって、今も土を使った左官壁は無くなることなく存在します。
土の調質作用、見た目の温かみ
土を使った壁は調湿作用や断熱性、見た目の温かみ等のメリットがあり、見直されはじめ徐々に広まって来ていると感じます。
それは、大手ハウスメーカーが珪藻土を使った壁を採用することや、大河ドラマ真田丸で有名になった左官職人挾土秀平さんやTV番組情熱大陸に出演された久住有生さんの影響もあり、土の魅力が一般の方にも広く理解されて来ているのではないかと思います。
土の調湿作用は、四季のある日本には適した材料で、湿気の多い日は土が湿気を吸収してくれ、乾燥している日は土に含まれる水分が放出されます。そこに暮らす人に優しい建築材料です。
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