なぜこんなにコンクリート打放しに魅力を感じるのか、はっきりと説明している文献はありませんが、なんとなく見えて来たと思っているので、今の私が思っているコンクリート打放しの魅力について解説したいと思います。
コンクリートを美しく感じる理由
なんとなくコンクリート打放しはかっこいいっと思っていましたが、なぜそんなに惹かれるのか。
それは、意匠的な美しさと、造られる過程から滲み出る美しさの両面からくるものかと考えられます。
意匠的な美しさ、自然素材を際立たせる力
無機質であり、不均整な表情が、石や木などの自然素材と同じような、人が意図して造っていないところに魅力を感じるのではないかと考えています。
大自然の風景が圧倒的な魅力を放つのは、様々な要素がある中でも「人の意図が介入していない」ところが大きく影響しており、コンクリート打放しの表情の豊かさも、大自然の風景に通じる所があるのではないでしょうか。
また、美しいコンクリート打放しは、石や木や植栽などの自然素材との相性がよく、コンクリートの無彩色の程よいグレーが、それら自然素材の色を際立たせて、より自然を強く感じされる力があります。
特に、打放しと植栽の緑の組み合わせが非常に美しく感じます。どちらも力強さと瑞々しさがあり、しっとりと落ち着いた空間となります。
造られる過程から滲み出る美しさ
現在の建築は、殆どのものが工場で造られ、その場で組み立てられるなか、コンクリート打放しは、いまだにアナログ的で、その地域の職人が、その地域の砂と水と空気を使って化学反応を起こし造られます。
古来から煉瓦や左官壁についても、同様に、その地域の職人が、その地域の土と水と空気を使って造られ、今もその魅力は引き継がれ、最新の建築にも採用される場面が見受けられます。
また、美しいコンクリート打放しは、造る過程に高い技術力と職人技が必要で、それらを上手く調律する設計と監理の環境が整っている必要があります。
それら過程を知っている建築家は、コンクリート打放しを好む傾向があるのかもしれません。
コンクリートを美しく仕上げるためには
コンクリートを美しく仕上げる為には、いくつかの乗り越えなければならないフェーズがあります。
その全てのフェーズがクリアされなければ、美しい打放しは出来ないと考えます。
フェーズ1、設計段階
フェーズ2、打設前段階
フェーズ3、打設
フェーズ4、養生
フェーズ5、メンテナンス
フェーズ1 設計段階
設計図に打放しの方法と、コンクリート打放しのデザイン意図を落とし込む必要があります。
単純に、「コンクリート打放し」と記載するだけでは、美しいコンクリート打放しは実現することは到底難しく、具体的な意匠とコンクリートの仕上り状態に持っていくための設計図でなければなりません。
具体的には、コンクリート打放しの意匠は荒々しいものとしたいのか、それとも整然としたイメージとしたいのか、それによってもコンクリートの型枠種別、パネル割り、コンクリートの配合等も変わってきます。
また仕上り状態についても、マットな表情としたいのか、素のままのコンクリートの表情としたいのかによっても、コンクリートの配合や養生方法、仕上げの保護塗料の種類が変わってきます。
それらの意図を正確に現場へ伝え、実現するために、設計図にはコンクリート打放しの造り方を明確に示す必要があります。
設計図に最低限明記すべき内容としては、コンクリート配合、型枠種別、型枠の存置期間、型枠の養生方法、型枠パネル割、型枠に杉板等を使う場合は、杉板の仕上げ(焼杉や浮造り)、杉の灰汁抜き方法や養生方法、剥離剤の種別、セパの種類、セパ割、打設方法、打設後の養生方法、打放しの仕上り状態のグレード、ピンホールやコールドジョイント、豆板の補修判断基準や補修方法、モックアップの作成方法などになります。
フェーズ2、打設前段階
設計図で明確にコンクリート打放しの内容が明記されていても、現場で更に共通認識を持つ必要があります。
まずは、コンクリート打設勉強会を設計者・施工者で開催し、コンクリート打放しに対する共通認識を持つことが重要です。
勉強会後、モックアップを製作し、設計図に示されている意図が反映できているかの確認を行います。
打放しは、地域の材、空気、水、職人で造られますので、モックアップで最終確認することは非常に大事な工程となります。
コンクリート打放しの仕上りの状態を確認出来れば、そこから実物のコンクリート打放しを打設する為の、コンクリート打設計画書を作成します。
コンクリート打設計画書では、コンクリートの配合以外にも、打設時間、打設順序、打設の為の人員配置、バイブレーションや叩きの配置等、確認します。
それらが全て確認出来れば、いざ打設です。
フェーズ3、打設
打設当日、朝礼時に作業員との最終共通認識を持ち、計画書に基づいて打設を行います。
コンクリート生もので、完全に固まるまでは時間との戦いとなります。
十分な打設計画書を作成していても、現場では上手く行かないことも多々あります。
それでも、コンクリート打設は一旦スタートしてしまうと止めることは出来ませんので、タイムキーパーとなる人を事前に決めておくことも重要となります。
とにかく密実に締固めることが重要で、その為に竹棒を使い人の手にくる感触により締まっているかを確認します。
床面は、踏みしめることにより、密実なコンクリートとします。
フェーズ4、養生
コンクリートは、水との化学反応により密実なものとなります。水との化学反応は、打設後数ヵ月間続きますので、出来る限り水分を表面から蒸発しないように養生することが望ましいことになります。
ただし、現場の工程上、その化学反応が完了するまで養生することは現実的ではありませんので、次工程進める為に、コンクリートの構造的な基準強度が発現した段階で脱型し、コンクリートが化学反応の途中段階で露呈することが殆どとなります。
化学反応途中段階で、表面の水分が蒸発すると、化学反応が上手く作用せず表面だけが密とならず、乾燥収縮による微細なひび割れや、ピンホールの多い表情に繋がります。
次工程に影響のない範囲で、脱型後はビニル養生や散水養生を行い、表面の蒸発を防ぐ工夫が必要となります。
フェーズ5、メンテナンス
密実な美しい打放しを造ることが出来れば、100年以上はメンテナンスをしなくとも強度と美しさは保持しますが、そんな全てのフェーズが上手くいかないのがコンクリート打放しでもあります。
人や自然と同じで、痘痕や補修跡がそのコンクリート打放しの個性でもありますので、それらの個性を許容しつつ、定期的なメンテナンスを行うことが重要です。
打放しにはひび割れはつきものです。そのひび割れとも上手に付き合う方法もあります。
これは金継の技術ですが、建築にも応用可能です。
コンクリート打放しの意匠
コンクリート打放しは、パネル割、セパ割、セパの色、セパの深さ、型枠の種別等によって意匠が大きく変わってきます。
パネル割、セパ割いろいろ
最もメジャーな打放し。打放し型枠900×1800横使い、セパ割@450@600組合せ
打放し代表建築家の安藤忠雄さんも、この割付を多く採用されています。
パネルを縦使いとするのか、横使いとするのかはその建物の意匠やモジュールに合わせて検討します。また、セパ割についても@450と@600は規模と打設高さによる計算によって導かれますが、住宅程度の規模の小さいものであれば@450がほどよいと思います。バランスを見ながら決めていきます。
こちらは、600×1800パネル縦割付、セパ割@600とした例です。雰囲気が一気に変わります。
個人的な意見ですが、バランス的には900×1800横使いで、セパ割縦方向は@450、横方向は@600の組み合わせが最も美しく感じます。
セパの色、深さいろいろ
セパの色は、コンクリート素地の色に合わせるのが一般的ですが、少し濃い目にすることでメリハリが効いてきます。
杉板浮造り型枠、セパ色やや濃い目
これぐらいが丁度いいです。
打放し面より、やや濃い目がいいと思うのですが、
杉板型枠の場合、出来上がりの色のグレーにかなり差があります。
モックアップで丁度よくても、場所によっては、セパ部分の方が白くなる場合もあり、少し濃い目をセレクトしておくと安心です。
杉板浮造り型枠、セパ色いろいろ
セパ色をいろいろ試しましたが、やはりやや濃い目がしっくりきます。
薄目のセパデザイン
色も深さもやや薄目のセパデザインです。清楚な感じがします。
セパを埋める深さも出来る限り、堀が深い方がメリハリが効いて個人的には好みですが、谷口吉生大の打放しはそれ程強調しないものが多いです。これは建築とのバランスを考えて、薄くしているのだと思われます。
杉板、その他合板型枠いろいろ
難易度が更に高くなる杉板型枠打放しです。
ですが、通常の打放しにはない「温かみ」や、陰影による「表情の豊かさ」は、コンクリート打放しの魅力を更に増してくれるような良さがあります。
杉板浮造り
杉板を浮造りとすることで木目をはっきりと魅せることが出来ます。
イメージとしては非常に力強くなります。
この浮造りを乱張りにするのか、定尺張りでするのかでもイメージは変わってきます。
杉板型枠出目地タイプ
目地が出るように型枠を操作することで、杉板の板目が薄くとも木を感じられる仕上がりとなります。出目地の寸法をいくつにするかは、モックアップで確かめる必要がありますが、目地寸法3mmを下回ると脱型時に目地が割れてしまう恐れがあります。
杉板幅をランダムに
杉板の幅を複数組合わせ、乱張りにすることで、大きな一枚壁と認識させることが出来ます。
小幅板縦張り
外壁の板張り、扉の板張りに合わせて、小幅板型枠も縦使いとした例です。
小幅板を縦に使うことで、打設時の空気の抜けはよくなると思われます。
小幅板横張り(定尺張り)
小幅板(W80程度)、プレナーかけしたものを横張りとして定尺張りしています。
杉板のプレナーの精度と、定尺張りを合わせることで落ち着いたイメージとなります。
足場板を使ったような荒々しい仕上げ例
杉板の表情が非常に荒々しい仕上げです。足場板に使われるような杉板材を使っているのではないかと思われます。
小幅板の厚みを変えた例
小幅板の厚みを変え、凹凸感を強調しています。打設時に凹凸面に空気が溜まらない様しっかりとした型枠バイブレーションが必要となることと、脱型時に凹凸面を荒らしてしまう恐れのある非常に難易度の高い打放しです。
小幅板縦張り例
小幅板凡そ60㎜程度のものを乱張りで、縦に使っています。また型枠板の厚みが薄くしたせいか、かなり暴れて凹凸が出来ています。
合板型枠の例
荒々しい合板をそのまま転写して、木材とうまく対比させ、しっとりとした雰囲気となっています。
まとめ
なんとなく惹かれるコンクリート打放しですが、その惹かれる理由は自然に近いものがある処に加え、その地域のものと人で造られる素朴な材であることです。
出来栄えに完璧さを求めず、ある程度の痘痕を許容した個性的で、大らかな仕上げは唯一無二の存在です。
建築家が好んで使っているのは、そんな処に魅力を感じているからだと思います。
ただし、美しいコンクリート打放しは簡単に出来るものではなく、いくつものフェーズをクリアした上に出来る、高度な設計力と熟練の職人技が成せる業です。
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