大規模な建物を建てる際は必ず「設計」が必要となっていることは、新国立競技場の設計コンペがあったことで、認知度は高くなっています。
住宅に限っては、まだまだ設計費のことが認知されてなく、ほんの一部の人が知っているような感じではないでしょうか。
住宅を建てる際、依頼先によって設計費の要否が異なってくるところがあります。
一般的に認知度が最も高いハウスメーカーや工務店では、設計費(設計料)を徴収しないことが多く、住宅を建てる際は設計費(設計料)は要らないものと認識されている所があります。
そもそも設計は本当に必要なものなのか。設計を業としている建築士が本音で解説したいと思います。
設計費(設計料)とは
設計費(設計料)とは、建物の設計に対する報酬を示しております。
何百万円から数億円もの設計費(設計料)の成果は、工事をする為の「設計図」すなわち紙だけです。
設計費の算定例
設計料の算定については、実は国土交通省で算定方法が明確に示されています。
(下記のホームページに事例が乗っており、分かりやすいです)
簡単に説明すると、建物用途(住宅か事務所か病院か等)によって、設計の難易度や経費が異なるので、用途毎に算定基準が変わります。よって、建物用途と規模が決まれば凡その概算金額は算出することは可能です。
上記例にも記載がありますが、木造2階建て30坪(100㎡)では設計費350万円となります。
設計費の実態
ハウスメーカーや工務店では、上記のような設計金額は見積りには含まれていませんので、高く感じますよね。
設計事務所に依頼する場合も、この金額より低いこともあり、実態とは少し異なります。
設計事務所の実態は、国土交通省の計算式を使わずに、実際に経費として掛かる費用を算出していることが多いです。
設計は、経費は他の業種に比べて非常にするなく、人経費が殆どを占めています。
また、作品を残して実績を積み上げたいと考えている設計事務所が多くありますので、目の前の報酬よりも将来の活動を見据えて設計することが多く、かなり安く設計費を設定される場合もあります。
設計費(設計料)が高く思われる理由
上で挙げた内容をまとめると、
・ハウスメーカーや工務店では設計費が不要となる場合がほとんど。
・設計の対価は設計図「紙」のみ。
・実績の積み上げの為、安く請け負う設計事務所が多い。
これら理由より、設計費に何百万円も払うことが高く感じるのではないでしょうか。
ただし、設計費(設計料)の対価として見えるのは設計図という「紙」だけですが、設計はその紙に建物の出来栄えを左右する技術を注ぎ込むことになります。
そもそも設計は本当に必要か。建築士の本音
設計を業として働いて環境で感じることは、『本当に価値あるものと、そうでないものがある』ということです。
設計は、設計者によって、その建物に入れる思いや、それまで積み上げてきた技術が大きくことなることがあります。
建物配置や平面図のプランニング一つを取っても、今やフリーのソフトで誰でも、それらしい絵は描ける環境です。センスと技術のない設計者より上手く設計する素人もいます。
ただし、本物の設計者はその敷地の背景・環境を読み解き、技術的・法的な解決により、費用対効果が高く、その上で意匠的なところに価値を付加する建物を設計図の中に落とし込みます。
それらがデザインされた設計図は、本当に価値のあるものと考えられますが、
残念なことに、そうでない設計者も現実にはいます。
残念な、そうでない設計者
設計は、敷地の背景・歴史・環境を調べることや、様々な材を吟味し、その敷地や建物に最も適した材を検討すること、それらを総合的に、技術的、法的解決するために、日々研鑽し、設計図の中に落とし込む作業を行いますが、非常に時間と労力のかかる作業となり、設計料に見合わないことが殆どです。
設計者は、設計費よりも本当にいい建物を後世に残したい一心で設計に注力しますが、ビジネスライクな設計者も世の中には多数存在します。
それらの建築にかける時間と労力が設計費の粗利に直結しますので、出来る限り時間と労力を削減できる方法として、カタログ設計とコピー設計と出来ない設計です。
カタログ設計
建物の殆どをカタログから選定して設計する設計者が存在します。
現在は、建築の殆どの部材が、メーカーが製作する既製品で作ることが可能となっています。
予め工場で作った製品を、現場でパズルのように組み上げていく。
設計者としては、考えることと責任をすべてメーカーに任せられるので、手間を省くことが出来ますが、本当に、その建築に最も適しているのかが不明です。
メーカーの既製品を使うこと自体は悪くないですが、本当にそれがベストな選択であるかを検討する必要があります。
例えば、手摺
例えば、手摺一つ取り上げても、既製品で簡単に設計・施工可能です。
メーカー既製品をつかえば、設計が要らないぐらいです。
ただし、その建築にあったスケール感があります。手摺の支柱のデザイン、手摺の持ち心地、手摺の材質、手摺にかかる荷重設定などなど、それらを加味したデザインで、在来の木や鉄を駆使してつくることで、既製品をよりも安くつくることが可能です。
それをせずに、最初からメーカー既製品のカタログを広げて、どれにしようかと選定からスタートしている設計者が存在します。
コピー設計
敷地にいままでやっとことのある間取りをそのままコピーで当てはめる設計があります。
設計者としては、かなり手間と労力が省けます。
また、建物自体ではなく、部分的にコピーする設計も存在します。
窓、ドア等の建具関係について、何も考えずに、構造的に支障とならない位置へ適当にコピーする。本当にそれでいいのかと思われる設計者も、この世の中には実在します。
出来ない設計
よくサラリーマン設計士でこの「出来ない設計」は存在します。
お客様からの要望等に対して、「これは出来ない」「これは出来るけど高くなる」と会話を早々に切り上げて、自分のペースで進めてしまう設計者がいます。
選択肢を早々につぶすことで、検討の項目を出来る限り少なくし手間を省くことが出来ますので、簡単に出来ないと言ってしまう節があるようです。
もちろん本当に出来ないこともありますが、今の技術があれば殆どのことは可能です。
設計が要らない建物もある
上記で挙げたように、コピーで作る建物は設計が要らなくなります。
それ以外には、近い将来AIによる設計が可能となりうることです。
敷地の条件や間取りや要求事項等を入力すれば、構造的条件、設備的条件、法令条件等すべてAIが算出し、自動で設計図が生成されていくことになるでしょう。
設計費に見合う意匠的な価値
設計の大部分が、AIにより自動で設計されるようになれば、本当に価値のある設計が求められることになります。
建物の設計で大部分はAI計算により導き出されますが、計算だけでは導き出せないもの、すなわち意匠的なところに価値が生まれてきます。
逆に、意匠的なところに価値を求めない場合は、人による設計は不要となってくるのではないでしょうか。
そうなれば、『意匠的なところの価値』の要否により、設計の要否が明確となり、設計費の本当の価値が見出せるにではないかと考えます。
今の所、AI設計は不完全ですが、同じことが言えるのではないでしょうか。
価値のある設計、それは意匠的なところがデザインされているか否かです。
意匠的なところの価値については、別の記事で紹介したいと思います。
コメント