建築家の設計する建物にはコンクリート打放しがよく使われています。
また、建築を依頼する施主側の意識も変化していることあり、コンクリート打放しが選ばれやすくなっていることも一つの要因でもあります。
それにはデザイン的な要素だけで選ばれているのではなく、技術的な要素や、機能性、経済性、安全性を考慮した上でコンクリート打放しが最も適していると判断される場合があるからです。
建築家がコンクリート打放しを選ぶ理由
構造、非構造の安全性を兼ね備えた耐震性
遮音性、耐火性などの建築的機能性
躯体と仕上げを兼用できる経済性
一昔前であれば、コンクリート打放しと聞くと現場途中のコンクリートや、土木擁壁などの冷たい・荒々しいなどのマイナスのイメージが強かったかもしれません。
打放しの今までのイメージ
冷たい
工事途中
荒々しい
今や、デザイナーズマンションや建築家の設計した住宅でコンクリート打放しが使われるのはよくある風景として見られるようになりました。
また、公共建築物や大規模な商業施設などにもコンクリート打放しのデザインが取り入れられることも多くなり、コンクリート打放しのイメージがかなり改善されているのではないでしょうか。
コンクリート打放しを世に広めた安藤忠雄の影響
ここまでコンクリート打放しが世に広まったきっかけをつくったのは建築家安藤忠雄の影響がかなり大きいのではないかと思います。
安藤忠雄の初期の作品である住吉の長屋の時代は、まだまだコンクリート打放しに抵抗感を感じられることが多かったかもしれませんが、4×4の家や光の教会が雑誌などに掲載されてからは、一気にコンクリート打放しの魅力が広がりました。
更にコンクリート打放しの美しさに磨きがかかり、東京ミッドタウンの21_21 DESIGN SIGHTや、靭公園の住宅でも美しいコンクリート打放しの美しい空間を見ることができます。
最近では、海外の美術館(パリのブルス・ドゥ・コメルス)でも安藤忠雄のコンクリート打放しが採用され話題となっています。
また、子どものための図書館を安藤忠雄の寄付によって、大阪・神戸と連続して建物が完成しましたが、2つ共コンクリート打放しの建物で、内部は本棚で埋め尽くされた空間となっています。
コンクリート打放しをした意匠ですが、子どものための図書館で、木材や鉄などと組み合わせながら温かみの感じられる建物となっています。
これらは、メディアを通じて建築業界以外の世界にも発信されています。
コンクリート打放しの意図しない表情が建築家を虜にしている
コンクリート打放しの魅力の一つとして、唯一無二の無垢な表情があげられます。
コンクリート打放しは、工業製品のようにおなじものを大量生産することができず、現地の材料を使って、現地の職人により一品生産されます。
コンクリートを打設するときの温度や湿度、天候により打放しの表情は変わり、自然素材の木材や石のようにヒトの作為的な意匠が介入できない美しさが加わります。
コンクリート打放しの魅力
現地の材料を使って、現地の職人が作り上げる地域性が反映される
自然素材の木材や石と同じようなヒトの作為的な意匠が介入できない美しさ
コンクリートを打設するときの季節、温度、湿度にも意匠が反映され唯一無二の表情となる
現代の建築仕上げ材料の殆どが、何かしらの化粧を施すことで見た目の平らな綺麗さを求められ、工場で精度良く均一的に造られます。
現在の建築に求められる性能
均一な仕上がり
大量生産できる汎用性
流通性と経済性
公共建築物の設計基準の中でも、建築仕上げは将来の更新を考慮した汎用性と経済性と耐久性が求められ、最も流通性が高い工業製品が採用される率が高くなります。
化粧による均一的な綺麗さと、流通性、汎用性、経済性の観点から、構造躯体と仕上げ材は別物で考えられ、コンクリートの構造躯体をそのまま仕上げ材と使われることなく、仕上げ材のクロスやペンキによって化粧されることが現在の建築会では慣用的となっています。
そんな中、精度良く造られる工業製品の綺麗さだけでなく、自然の表情豊かな材料の美しさに魅力を感じられるのではないでしょうか。この感性は日本的で、侘び寂びのこころに通じるものがあります。
コンクリート打放しは、造られる過程に地域性が加わり意図してつくられない美しさがあり、日本人の感性に相性がよい仕上げ材です。
コンクリートの品質安定性の向上と、打設技術の浸透
コンクリートはセメントと水と砂利などを混ぜ合わせてつくられます。
建物に要求される防音、防水、遮蔽などの機能性に加え、構造的な強度を確保するためコンクリートの配合を調整します。
コンクリートの配合方法は、技術の進歩によりさまざまな基準類が整備され、現場でつくられるコンクリートの品質安定性が一気に向上しました。
コンクリート打設時の施工技術についても、さまざまな事例のバックデータをもとに打設技術が整備され、それら情報が容易に入手できることになりました。困難であった美しいコンクリート打放しが実現できる施工者が増えています。
コンクリートの配合基準やコンクリート打設の技術基準など、建築界だけでなく土木界含めると非常に沢山の技術基準が整備されていますが、新しい技術の開発も進み昨今では環境に配慮した技術を取り入れる開発であったり、カーボンニュートラルの考え方をコンクリートの技術にも取り入れられるようになってきました。
常に新しい技術が開発され、技術基準も更新されています。建築家や建築設計者は、これら更新される技術を常にインプットし、高い品質のコンクリート打放しを実現していく必要があります。
コンクリート打放し補修技術の向上
コンクリートの配合技術や施工技術が向上し、高い品質のコンクリート打放しが実現しやすくなりつつありますが、それでも美しいコンクリート打放しを実現出来ない場面も多々見受けられるのが現段階での実情です。
それは、やはり工場で均一的につくるものではなく、現場で一品生産されるものであり、現場での職人や、打設時の温度、湿度、天候などにも影響をうけるからです。
現場ごとに違うものが出来てしまうもので、それがコンクリート打放しの魅力でもありますが、やはり防水性や、構造強度に影響の与える欠陥が出来てしまう場合があります。
また、コンクリート打放しの表情は建築家や設計者によって、荒々しさの許容範囲が異なってきます。思っていた以上に荒々しい表情となる場合もあります。
そんな欠陥が出た場合や、狙っていた表情にならなかった場合の措置として、コンクリート打放しを狙い通りのところまで復元させる技術が向上してきています。
一昔前であれば、コンクリート打放しが欠陥が出た場合の補修をみると、補修下部分があきらかに分かるようなもので、防水性や構造強度を確保するための補修で、意匠上やむを得ないと判断されていましたが、昨今の補修技術は、補修した部分としていない部分の境界が殆どわかならいところまで復元することが可能となりました。
更に、コンクリート打放しの色味や荒々しさの程度も現場ごとに異なってきますが、それらも表現することも可能となりました。
コンクリート打放しは、現場で作り上げ簡単に作り直すことができない一発勝負の緊張感のある建築仕上げではありますが、補修技術の向上により万が一の場合の対応は今までに比べるとかなり安心できるようになりました。
構造と仕上げ(意匠)を兼ねることで得られるメリット
コンクリート打放しの魅力の一つに、構造躯体と仕上げ材を兼ねることが挙げられます。
構造躯体と仕上げ材を兼ねることのメリット
壁の厚さを小さく抑え空間を広く使うことができる
仕上げ材を省くことで経済性が高まる
建物の骨組みがあらわれることで力強い意匠となる
構造躯体と仕上げ材を兼ねることで、壁の厚さを小さく抑え空間をより広く使うことが出来るメリットがあります。
空間を広く使うことが出来る物理的メリットではありますが、意匠的な観点でも大きな魅力があります。
それは、構造躯体がそのまま意匠として表れてくる様は、単に化粧しているものより力強さが感じられます。
古民家の大黒柱や大きな梁がなにも化粧されずにそのまま使われている空間や、お寺などの柱や梁、屋根の構造がそのまま表れている様を見て、力強さがあり心に残る印象的な空間に感じられるのは、建物の骨組みである構造体がそのまま意匠として表現されていることに起因していると考えられています。
コンクリート打放しは、建物を支える骨組みである構造体がそのまま表れていることから、その力強さを感じられるものとなります。
そんな空間を有効に使える物理的なメリットと、構造躯体の力強さを表現することが出来るコンクリート打放しに建築家は魅力を感じているのです。
耐震安全性の確保にもコンクリート打放しは有効
耐震安全性の観点からもコンクリート打放しは有効な手段となります。
コンクリート打放しの耐震性のメリット
構造上に最も強く耐震性が高い
仕上げ材としても剥がれや落下の可能性が低く耐震安全性が高い
建築物の耐震安全性には、まずは建物が倒壊しないための構造的強度面の規定があります。
一般的に耐震補強といわれる改修工事がそれに該当します。
大地震時に建物が倒壊しないように建築基準法で建物耐震強度の規定が定められています。
昭和56年以降に建てられた建物であれば、震度6強〜7程度の大地震で倒壊しない耐震性を有しています。
ただし、これは建物が倒壊しないための基準であり、構造体(柱や梁や屋根など)を倒壊させない基準となっていますので、天井材や外壁材などは建築基準法上の耐震安全性の観点での規定されておらず、大地震時に剥がれ落ちる可能性があります。
阪神大震災、東日本大震災、熊本地震においても、昭和56年以降に建てられた耐震性を有している建物の倒壊は殆ど確認できておりませんが、それら建物も外壁材や天井材が落下し2次被害をうけている事例が報告されています。
コンクリート打放しの外壁や天井仕上げの場合は、構造躯体を兼ねているため建築基準法上、大地震時に倒壊しないようにつくられています。
大地震時、コンクリート打放しにひび割れ程度の被害はありますが、基準を満たした建物であればコンクリートが落下することがありませんので、コンクリート打放しは耐震安全性の観点からも非常に有効な仕上げ材となります。
コンクリート打放しが建築家に好まれる理由
コンクリート打放しは、最近では商業施設やカフェなどお洒落なイメージが浸透しつつありますが、技術面や安全性の観点でも有効であり、地域性があらわれ建物に非常に豊かな表情を与えてくれます。
コンクリート打放しは、自然の緑や土などのアースカラーとの相性もよく、経年による変化にも耐えうる材で、日本人の感性に相性のよい建築仕上げ材の一つです。
技術的観点とデザイン的観点、日本人のこころに上手くマッチするコンクリート打放しは、現在の建築家に魅力的に見えているのかもしれません。
コメント
コメント一覧 (1件)
[…] コンクリート打放しが建築家に好まれる理由 […]