火災時の建物の安全性確保と、建築基準法の排煙規定の小技6選

今回は少し建築マニアック話で、自身の備忘録でもあります。

建物は建築基準法により、火災時にヒトの命を守るための規定が定められています。

火災時には、有害な煙が発生し、それに巻き込まれて命を落とす事件があとを絶ちません。

特に廊下は避難の経路となりうるところですので、安全に煙を排出させる必要があるため、法的に規定されている以上に設計者として安全性を考慮することろでもあります。

ただ、廊下は特に大きな窓がとれないプランとなる場合があり、非常に法的解決することが難しい所です。

目次

そんな時の逃げ道(ちょっとした小技)のお話。

これから紹介する小技6選は案件ごとに建築主事への確認も必要ですが、大きくプランを変えることなく対応可能な内容です。

1、廊下突き当りの排煙窓手前で折り上げ天井にする。(奥行き80cm以上確保)

開口部からの自然排煙を有効と計算できる窓の高さは天井面から80cmの範囲と規定されています。

ただし、室内側に扉等があり、扉高さが天井面より80cmの範囲より高い場合は、有効高さがその分少なくなります。

そこで排煙窓手前で天井を折り上げることによって天井高さを上げることで、扉高さを変えずに排煙有効高さ確保する手法です。

2、廊下の天井を格子天井などの煙が透過する構造とし、法的な天井高さを3m以上とし、排煙窓Hをかせぐ。

建築基準法告示1436号第三号には、排煙有効と考える部分について『天井高さが3m以上の場合、床から2.1m以上、かつ、天井1/2以上の部分が有効であることの記載があります。

すなわち、その範囲であればすべて有効と解釈できますので、天井から80㎝規定もなく、排煙窓Hを高く確保することができます。

3、廊下を「室」扱いとし告⽰1436 号第4 号(⼆)(2)適用させる。

『防火避難規定の解説』に廊下は『室』と扱うことで、告示を適用できる旨の記載があります。

ただし京都市や神戸市などの一部の地域では廊下は避難の経路であるため、室としての解釈は不可と判断されている地域があります。

この廊下に告示を適用させる内容については、設計者として火災時の避難安全性を十分考慮の上適用可否を検討する必要があります。

4、廊下の一部を『前室』として廊下面積を減少させる。

廊下の排煙は、廊下突き当りの窓面積が少ないために、当該廊下部分の煙容積を排煙するだけの開口面積がとりづらい点があります。

廊下の煙容積を減少させる手立てとして、廊下の一部を他室の『前室』として区画しすることが考えられます。

ただし、前室にぶらさがる居室は1室のみと指導が入ることがあります。

5、廊下の必要排煙不足分を隣接する室(居室)へ欄間を介して排煙する。

廊下の突き当り窓だけで排煙必要面積が確保できない場合、不足する排煙面積を隣接しる他室へ流し、他室の排煙窓で合算して反映させる方法があります。

ただし、他室へ排煙する場合、不足する部分のみで全部を他室に流すのは不可と判断されます。また、他室へ流す場合は2室直列まで、例えば、廊下→他室→他室と3室以上またいでの排煙は不可と判断されます。

6、避難安全検証法を適用させる。

避難安全検証法を適用させることで、排煙設備の規定が除外されることになります。

避難安全検証法は火災時の溜煙時間と、火災が起こってから人が避難する時間の計算を行い、火災が発生してから人が建物のそとまで安全に避難できるかを検証する方法で、この計算式により安全が確保されれば、排煙窓を設ける必要がなくなります。

そもそも、火災時のパニックになっているときに建築を知らない素人が排煙窓を開けて避難するか否か、非常に疑わしい所です。

それより安全な避難時間を検証する『避難安全検証法』はより現実的な法解釈な方法です。

令126条の2 排煙設備おさらい

排煙が適用される建物又は居室

①特建延面500㎡超

②階数3以上500㎡超

③排煙無窓の居室

④延面1,000㎡超える建築物の床面200㎡超の居室

※①②「建築物全体に排煙設備が必要」な場合については、居室だけでなく、倉庫や更衣室といった「室」や廊下などの「通路」にも排煙設備が必要

排煙緩和(建物全体に適用)規定

①用途緩和(学校、体育館など) 令126条の2第1項2号

②軸組不燃+用途緩和(機械製作工場など) 令126条の2第1項4号

③住宅緩和(2階以下、床面200㎡以下、V≧A・1/20 告示1436号第4イ

④消防設備(不燃性ガス又は粉末消火)+用途緩和(車庫など) 告示1436号第4ハ

排煙緩和(部分的に適用)規定

①用途(病院・共同住宅・寄宿舎など)+100㎡以内+準耐火区画+防火設備令126条の2第1項1号

②階段、EV防煙垂れ壁 令126条の2第1項3号

③局部的な洗面所、便所 令126条の2第1項3号

④DS・PS 令126条の2第1項3号

⑤児童福祉施設・美術館以外の特建以外の避難階又は直上階で各居室から道へ避難できる出入口 告示1436号第4ロ

⑥高さ31m以下にある「室」、仕上準不燃+防火設備 告示1436号第4ニ(1)

⑦高さ31m以下にある「室」、100㎡以内の防煙区画 告示1436号第4ニ(2)

⑧高さ31m以下にある「居室」、仕上準不燃+準耐区画+防火設備 告示1436号第4ニ(3)

⑨高さ31m以下にある「居室」、100㎡以内の仕上下地共不燃 告示1436号第4ニ(4)

設計者として

排煙設備の規定については、様々の緩和規定や解釈方法があります。その中で計画建物のプランやデザインに関わってくるところでもあり、設計者として非常に頭を悩ますところでもあります。

プランやデザインを成立させるために、様々手法で法的に解決させていくわけですが、昨今の放火事件等により沢山の命が奪われる事件を見ると、まずは火災時の避難安全性を第一に考える必要があることをつくづく考えさせられます。

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この記事を書いた人

・一級建築士
・インテリアプランナー
幼少期から大学までは和歌山の実家で田舎暮らし。
大手ハウスメーカーで累計約40棟の住宅を技術営業として担当。
その後、組織設計事務所に転職し、学校・庁舎・道の駅・公民館・発電所等の主に公共建築物の設計に携わる。
現在は組織設計事務所に所属し、日々建築設計業務に取り組む傍ら、建築系webライターとして建築に関わるマニアックな情報から住宅購入に関わる内容まで幅広く発信している。
和歌山から、大阪、東京と住まいを移し、また和歌山戻り、田舎に自邸を建てる。

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