リフォームやリノベーションについて調べているとスケルトンリフォームやフルリフォームと言った言葉がよくヒットします。
なんとなくスケルトンリフォームはフルリフォームと同意語で、全面改修をするのかなと想像できますが、正確には判断できないと思います。
今回は、スケルトンリフォーム、フルリフォームについて建築士の目線で解説していきたいと思います。
スケルトンリフォームとは
まずは、「スケルトンリフォームとは」ですが。
スケルトンリフォームは、フルリフォームやリノベーションとよく似た意味を持ち、建物の主要構造部である柱、梁、床、壁等はそのまま活かし、それ以外の外装や内装、水廻り等の設備機器等を全て改修することを示しています。
言葉の由来は、「スケルトン」=「骨格」=「建物の基礎や柱、梁等の主要な構造部分」から、スケルトンを残し、それ以外を全て(フル)リフォームすることからとなります。
スケルトンリフォームのメリット
スケルトンリフォームは、建物の骨格以外の全てを一新し、見た目はほとんど新築と同様の魅力的な建物によみがえらせるだけでなく、主要な構造に影響のない範囲で間取りを変えることも可能で、建替えに比べ費用を抑えられることが大きなメリットとなります。
建物の主要な構造部分については健全な状態であれば、60年以上の耐用年数がある(※1)と調査された報告もあります。
一方、主要な構造部分以外の外装や内装、水廻り等の設備機器の耐用年数については、15年~20年程度です。(※1)
外装や内装、設備機器については、屋根からの漏水が発見された時や、設備が壊れた時に、必然的にその部分だけをリフォームをすることが多いのではないでしょうか。
スケルトンリフォームは、建物の60年以上の耐用年数の中で、何度か更新が必要となる内外装や設備機器を、まとめて一新させることで、元々更新が必要だった費用を流用していることになりますので、効率的かつ効果的なリフォームと言えます。
スケルトンリフォームの改修する具体的な部位・種類
スケルトンリフォームの改修する具体的な部位・種類については、下記の外装、内装、設備となります。これらを全て(部分的に残すことも可)撤去し一新します。
1、外装
屋根(瓦やスレート、折版など)
外壁(サイディングやガルバリウム鋼板、左官、タイルなど)
防水(バルコニーの床面や、外壁材のシーリングなど)
建具(窓のサッシやガラス、玄関ドアなど)
2、内装
内壁(石膏ボードの上クロスやペンキ塗り、左官など)
天井(石膏ボードの上クロスやペンキなど)
床(フローリング、カーペットなど)
断熱(床、壁、天井の断熱)
3、設備
キッチン
トイレ
お風呂
洗面機器
照明器具(シーリングライトやダウンライト、ペンダントライトなど)
換気扇(全熱交換機など)
空調設備(エアコンなど)
その他、戸建て住宅であればカーポートや植栽などの外構もあります。
またマンションの場合は、共用部(上記の外装)を変更することは出来ません。
※1:期待耐用年数の導入及び内外装・設備の更新による価値向上について
平成25年8月 国土交通省土地・建設産業局不動産課住宅局住宅政策課
https://www.mlit.go.jp/common/001011879.pdf
スケルトンリフォームで出来ること、出来ないこと
なんでも出来るイメージがあると思いますが、出来ないこともありますので紹介します。
まずは出来る所から。
スケルトンリフォームで出来ること
柱や梁等の建物の主要な構造部分以外はすべて一旦撤去しますので、内外装を一新するだけでなく、間取りを変更することも可能です。
また、下記のような簡単な改装は全く問題なく対応可能です。
具体的要望例
・床はフローリングに変更したい。
・床暖房をつけたい。
・壁クロスはタイルに変えたい。
・天井は白く明るくしたい。
・ペンダントライトをつけたい。
・キッチンはLIXIL製の石目調天板キッチンがいい。
・トイレはTOTO製の最新のものを入れたい
また、隣接する2室の間仕切り壁が構造上問題のないものであれば、壁自体を取っ払い広い1室とすることも可能です。
広い1室としたあと、床材、壁材、天井材は自由に選ぶことが出来ます。
※マンションの場合は、そのマンションの定めている規定によります。
逆に、広い1室を2つの小部屋へ分割することも可能です。
スケルトンリフォームで出来ないこと
法令内での改修が大前提
これらの改修は、法令の許す範囲でのリフォームが大前提です。
建築基準法では、国民の生命、健康及び財産の保護が図られることが規定されています。
建物は建築基準法に則り造られなければなりません。
具体的には、火災時に人命を守る為の法律があり、内装に関して火元が考えられる部分へ燃えにくい材にすることが定められています。
ガス式キッチンや暖炉を計画する場合、それらの周囲は燃えにくい材の選定が必要となります。板張り等の可燃性の材は採用できないこととなっています。
また、寝室やリビング等の人が継続的に居る居室には、ある一定の窓面積が採光・換気・排煙上必要と規定されています。
間取りを変更し、窓に面しない居室が出来た場合、それは法令違反となりますので、それら法令違反とならない範囲でのリフォームとしなければなりません。
現実的ではないスケルトンリフォーム
改修する内容や、既存の建物の状態よっては施工期間が大幅に掛かってしまうことや、大幅にコストアップしてしまうこともあり、経済的観点より現実的ではないと思われる内容がいくつかあります。今回は特によくある事例「水廻りの大きな配置変更」と「主要構造部が劣化している場合」について紹介致します。
現実的ではないスケルトンリフォーム「水廻りの大きな配置変更」
間取りの変更について、水廻りの配置を大きく変える場合は、大幅にコストアップとなる場合や、他のプランに影響が出てくる可能性があります。
具体的には、お風呂やキッチン、トイレ等の水廻りについては、使った水を外に排水する為の配管が必要となります。
排水は勾配をもって流れていきますので、リフォームの場合、最後につなぎこむ配管のレベルが決まっており、そこまでの距離が遠くなればなるほど水を流す為の勾配が必要で、床レベルを高く設定しなければいけなくなります。
床に段差を付けて、水を流すよう勾配を設定することも可能ですが、バリアフリーが求められている昨今では特に現実的ではありません。
現実的ではないスケルトンリフォーム「主要構造部が劣化している場合」
スケルトンリフォームの場合、建替えに比べてコストを抑えるために建物の主要な構造部分をそのまま活かして使用することが大きなメリットでありますが、その主要な構造部分が既に劣化している場合があります。
その場合、劣化した柱や梁を交換する必要があり、大幅なコストアップ要因となります。
具体的な例として、木造戸建ての場合、雨漏りの形跡がある家や断熱が殆どない家には注意が必要で、柱や梁等の構造部分に水が浸入している場合は、劣化が激しくなります。
外装や内装に隠れて、工事をするまでは構造部分が見えない場合が殆どですが、天井材や壁材に雨漏り跡や結露跡がある場合は、構造部分まで濡れている可能性がありますので、注意が必要です。
また、木造の場合は、シロアリ被害によるものもあります。
これら構造部分の被害については、改修に時間と費用が大幅増となります。
スケルトンリフォームの流れ
スケルトンリフォームをする流れとしては、依頼先により若干ことなりますが、おおきくは下記の4つの流れになります。
1、リフォームの要望の整理・既存建物の調査
2、設計・確認申請・見積
3、着工
4、完成
1、リフォームの要望の整理・既存建物調査
リフォーム後、どのような建物にしたいのか、どのような暮らしをしたいのかを整理し、予算内で出来るリフォームの方向性を確認します。
また同時に既存建物を調査し、劣化状況の確認や、リフォームの要望に対する実現方法を確認します。
その上で、凡そのリフォームプラン、予算に合意出来れば、設計に入ります。
2、設計・確認申請・見積
上記の建物調査、リフォームプランを基に詳細設計を進めていきます。
ここでは、工事を行う為の詳細寸法や材料、設備機器等を選定していきます。
それら詳細設計が完了すると、法的な審査(建築確認申請)を行います。
建築確認申請が済めば、法的に着工可能となります。
その後、詳細設計図を基に施工者へ正式見積を依頼し、合意できれば工事の契約を行い着工となります。
3、着工
建築確認申請が済み、工事見積書に合意契約後、着工します。
着工前には、近所への挨拶にうかがい、工事中の騒音等に対する説明を行います。
着工後は、設計図通り現場が出来ているかの確認を行いながら、設計では決めきれていないクロスの色や、キッチンの色等を、実物サンプルを見ながら決めていきます。
また、スケルトンリフォームの場合、着工後、解体した段階で思わぬ費用が発生する場合もあります。
その場合、あと工事となる設備機器や内装工事のグレードダウン等を工事進行と同時に進めていきます。
4、完成
工事完了後は、設計通りに建物が完成しているか、扉や設備等の動作不良はないか、クロスやボードは綺麗に仕上げているか、照明器具や設備が正常に通電しているか等の確認を施主、設計者、施工者が行います。
また、完成建物が法的に適合しているか、法的検査(完了検査)を受けます。
法的検査(完了検査)に合格すれば、入居可能となります。
スケルトンリフォームの費用相場
スケルトンリフォームで発生する費用の項目については、先に紹介した外装、内装、設備となりますが、おおまかな費用感については、国土交通省が発表している下記のイメージが分かり易いので紹介します。
こちらのイメージは戸建て住宅をイメージしていますが、屋根と太陽光発電、基礎補強以外はマンションであっても共通で考えられます。
この例では、屋根の塗り替えに20万円から80万円とあります。
こちらは塗り替えする場合ですので、もし劣化が激しく葺き替えが必要となった場合は、倍以上の金額が必要となります。
また、下記イメージでは外装の塗り替えの記載がありませんが、凡そ60万円から150万円程度と幅広く選択できます。
引用)国土交通省「リフォームの内容と価格について 資料5」
スケルトンリフォームを行うべきタイミング
スケルトンリフォームを行うタイミングについて、ハード面(建築的)とソフト面(住まい手)それぞれで考え方があります。
ハード面(建築的)のスケルトンリフォームを行うタイミング向き不向き
まずは、スケルトンリフォームが、その既存の建築物の時期的な向き不向きがあります。
建築物の寿命については、先の項で触れたように健全な状態であれば60年以上の耐用年数があるとされています。
逆にいうと、60年以上も経過している建物は寿命間近となりますので、これから長く住まい続けようと考えている場合はお勧めできません。
また、建築基準法が1981年(昭和56年)に大きく改正されました。
それは建物の耐震性にかかわる内容で、それ以降に建てられた建物は新耐震基準に適合した建物で設計されています。
1981年以前の建物は、既に築40年の建物です。これ以前の建物は耐震基準が古い設計であり、構造自体を改修する必要性が高く、費用対効果が低くなる可能性があります。
逆に建築的にスケルトンリフォームをお勧めできるタイミングとしては、築20年以内の比較的築年数が新しい物件、戸建てであれば屋根・外壁・床下のコンディションがよい物件、間取りを大きく変えなくてもよさそうな物件は、スケルトンリフォームが比較的安価に行うことが出来、費用対効果が非常に高いと考えられます。
ソフト面(住まい手)のスケルトンリフォームを行うタイミング向き不向き
ソフト面では、子どもが大きくなって、それぞれ個室を与えたいので大きな1室を2つの個室へ間仕切りを変えたい、子どもが出ていき夫婦2人となったので、広々としたワンルームに変えたい等のライフサイクルの変化時にスケルトンリフォームを行うのが向いています。
また、出来れば外装や内装の更新時期と合わせれば更に費用対効果が高いものと考えられます。
スケルトンリフォームを行う上での注意点
スケルトンリフォームを行う上で最も重要な所は、業者任せにしないことです。
今やインターネットで沢山の情報を得ることが出来ます。
自ら勉強し、専門の建築士と共に議論を重ね、どんな建築物に仕上げていきたいかの意識共有をすることが出来れば、素晴らしい建築が出来上がる可能性は格段と上がります。
スケルトンリフォームは新築同様に決める内容が沢山あり、労力がかかることになりますが、それだけ出来上がった時の達成感は、他では味わえない程感動的です。
あと、細かな注意点としては、スケルトンリフォームを判断する時は、違法建築物や構造躯体が損傷している場合等、素人では判断できない内容がありますので、専門の建築士への相談をお勧めいたします。
また、業者へ見積をとる時については、インターネットで複数社依頼することもあるかと思いますが、スケルトンリフォームは、改修内容や改修する仕様により大きく金額が異なります。
複数社の見積から金額だけで判断することは実際には難しいことだと思いますので、金額だけでなく、リフォーム内容を十分理解できる提案か否か、十分な説明を受けたか否か等、総合的な内容で業者を選定することをお勧めいたします。
コメント
コメント一覧 (1件)
[…] […]