なぜキャンチレバーはそんな魅力を感じさせるのか

シンガポールのマリーナベイ・サンズや、建築界の巨匠フランクロイドライトの名作落水荘、日本建築家協会(JIA)の2011年度日本建築大賞を受領したホキ美術館など、パッと見ただけで他とは違う圧倒的なパワーと魅力を感じる。

pinterest(落水荘)
pinterest(ホキ美術館)

これら圧倒的な魅力を醸し出している理由の1つに、キャンチレバーの構造形式を採用しているところがあります。

非日常感を感じさせてくれる『浮いている感』これが最大の美しく魅せるコツです。『浮いている感』を実現させる技術的解と、キャンチレバーが人を惹きつける魅力の理由は日本建築の歴史にもヒントが隠されています

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目次

浮いてる感を醸し出すキャンチレバーの構造と経済性

そもそも「キャンチレバー」とは、英語のcantileverをカタカナ読みした用語で、建築的には、片側に柱を設けず、梁やスラブだけで張り出した構造形式のことを示します。構造力学的には、梁の一方だけを固定とし、もう一方は自由端にすることです。

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キャンチレバーの構造特性とメリット・デメリット

キャンチレバーは、片側が浮いている構造形式で固定される側に大きな負担がかかることになり不安定さも感じさせてくれる。この不安定さが浮いている感や非日常感に繋がり、魅力的に感じるのかもしれません。

キャンチレバーのメリットとしては

・柱がない分広く空間を使うことができる

・使い方によっては経済性も高まる

・浮いているような非日常感を演出できる

使い勝手がよくなることはもちろん、見て体験する建築や空間が魅力的に感じられることが最も大きなメリットで、建築家は好んで使う傾向があります。

キャンチレバーのデメリットとしては

・総じて経済性が悪くなる傾向がある

・安全性を確保するための構造負担が大きい

やはり、構造力学上不安定なカタチで柱がないため、耐力が低下すると崩壊に繋がる可能性があるため、安全に安全を重ね設計することになります。すなわちオーバースペック気味になり、梁の大きさが大きくなり、それは建物全体への構造体にも影響を与え、全体的に不経済な建物になる傾向があります。

キャンチレバーの経済特性

一方に柱がない分、片持ちで張り出す為の梁やスラブに大きな荷重を負担させることになるため、片持ち梁のサイズやスラブの厚み、それを支える為の構造体が大きくなり、経済性が悪くなる傾向があります。

ただし、片持ちする長さがそれ程大きくない場合は、逆に経済性は柱がない分よくなる場合もあります。

一般的によく目にするものとしては、マンションのバルコニー。

マンションのバルコニーの場合は、柱がない方が使い勝手がよいこと、柱がないと建築面積の緩和を受けられることなどから、キャンチレバー構造を採用することが多くなると考えられます。

マンションのバルコニーは、張り出す長さとしても約1m~2m程度と、それほど大きく張り出す必要もないため、この程度の張り出し寸法であれば、柱がない方が経済性が高まる傾向となります。

建物を美しく魅せるキャンチレバーの理由

キャンチレバーは構造的・経済的には不利ではありますが、美しい建物に採用されている事例が沢山あります。

なぜ、キャンチレバーはそんな魅力を感じさせるのか

1つのヒントとしては、古くからある日本の建築にも反映されていることにあります。

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日本建築のキャンチレバーの魅力

日本建築における屋根の構造は、深い軒のあるものが多く存在します。

幾十にも積み重ねながら跳ねだす軒は、まさにキャンチレバー構造です。

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これは、日本の湿気が高く、四季によって日差しの変化が大きい気候風土や、木材を中心とした建築材料などを雨風から防ぐ目的から、深い軒の必要性が高まったものだと考えられています。

日本の深い軒をもつ建物は、深い陰影を作り出し、その深い陰影のなかに、白い障子が際立ち、色の少ない日本建築にメリハリをつけ、穏やかさ奥ゆかしさを印象づけています。

深い陰影の内部は、障子を透した光が室内を柔らかく包み、天候や時間などの環境をやさしく伝える役割も果たしています。

陰影が作り出す情緒豊かな空間に日本の美が感じられます。

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キャンチレバーを実現する日本の技術から導かれるデザインコード

日本は気候・風土・建築材料から屋根を張り出させる必要性があったことから、屋根の軒先を長くする工夫が施されています。

昔の建築は、その地の材料でその地の大工が造ることになり、クレーンなどの重機もなかったことから、大工が運べる大きさで屋根の跳ね出しを細かな木材を組合せて造られるようになりました。

その幾十にも積み重ねられて跳ね出す軒先は、今も日本美のデザインコードとして引き継がれています。

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キャンチレバーの大胆さが芸術性を高める

建築だけでなく芸術性を感じるものは、他にはない大胆さが必要とされます。

建築は重力に逆らいながら柱・梁・壁・屋根などの構造体で構成され、地震や台風などに耐え得る強度が求められ、経済性の観点から出来る限りシンプルな構造体であることが定説とされています。

このシンプルな構造からあえて、重力に逆らうような構造体とするキャンチレバーは建築に大胆さを与えてくれます。

特に、大きく跳ね出せば跳ね出すほど、非現実感が与えられより強く大胆さが際立ち芸術性を高める1つの要因になっています。

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使い勝手と芸術性を併せ持ったキャンチレバーの魅力

キャンチレバーの魅力は、見た目に重さを感じないような軽やかな印象を与えることが出来ること、柱がないことで使い勝手がよくなる所です。

スケールをおとした魅力的なキャンチレバー

柱がないことのメリットは計り知れない。

スケールをもう少し小さく見ると家具でも柱のないことのメリットは感じられます。

例えば、机の下の柱がなければ椅子の配置が自由になります。また車椅子の利用にも有効となります。

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階段にもキャンチレバーの構造が用いられることがあります。

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階段を支えるための、一方の柱や壁がないだけで宙に浮いたような感覚があり階段が1つのオブジェとして見ることも出来ます。

芸術性高まるキャンチレバーの魅力

圧倒的な魅力付けになる芸術性の高いキャンチレバー。

非日常感を感じさせてくれる『浮いている感』これが最大の美しく魅せるコツです。

これは日本建築から導かれる技術的解と、日本の奥ゆかしい美を感じられるキャンチレバーの芸術性にあります。

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この記事を書いた人

・一級建築士
・インテリアプランナー
幼少期から大学までは和歌山の実家で田舎暮らし。
大手ハウスメーカーで累計約40棟の住宅を技術営業として担当。
その後、組織設計事務所に転職し、学校・庁舎・道の駅・公民館・発電所等の主に公共建築物の設計に携わる。
現在は組織設計事務所に所属し、日々建築設計業務に取り組む傍ら、建築系webライターとして建築に関わるマニアックな情報から住宅購入に関わる内容まで幅広く発信している。
和歌山から、大阪、東京と住まいを移し、また和歌山戻り、田舎に自邸を建てる。

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